daily lover




「行ってきま〜す」
「気をつけて行ってくるだよ。皆に迷惑かけないようにな」
お母さんが家の外まで見送ってくれる。
たまにはお母さんもお父さんと2人きりでゆっくりしたいんじゃないかと思った僕は悟天を連れてカプセルコーポレーションへと泊りがけで遊びに行くのだ。


外から見ても巨大なカプセルコーポレーションの入り口に立ってインタフォンを押す。
するとモニタにブルマさんが映った。
「悟飯君、いらっしゃい」
相変わらず若いなぁ…。
うちのお母さんは最近ちょっとしわが増えてきた気がするんだけど、ブルマさんにはそんな年齢の衰えは見られない。
「こんにちは。お言葉に甘えて今日は僕も来ちゃいました」
「いいのよ〜。どうせみんな暇もてあましてるんだから。どうぞ、入って」
その声と共にこれまた巨大な自動ドアが開く。
自宅のドアが自動ドアだもんなぁ。
田舎にある僕の家とは大違いだよ…。
悟天はしょっちゅう遊びに来ているせいか、僕みたいなカルチャー・ショックは受けないみたいだ。
臆することなく自動ドアの向こうへと入っていく。
すると奥からトランクス君が走ってきた。
「よっ、悟天!今日は新しいおもちゃがあるんだぜ!!」
悟天とじゃれあう。
それから僕に気付いたのかふと動きを止めてわざわざ僕の前までやってくる。
「悟飯さん、いらっしゃい。パパが重力室で待ってるって言ってたよ」
「ハハハ…。そう、なんだ」
最近全くといっていいほどトレーニングをしていない僕にその台詞は死刑を宣告しているようなものだよ…。
ガックリと肩を落とした僕にトランクス君が不思議そうな顔をする。
「どうしたの?パパと一緒にトレーニングしたくないの?」
「いや〜。そういうわけじゃないんだけど………。ちょっと、心の準備が…」
そう、こんな展開は予想していなかった。
だってベジータさんはいつも独りで修行して、独りで戦っていたから。
やっぱりトランクス君が生まれて色々と心境の変化があったのかな?
トランクス君と悟天は奥のほうへと走っていってしまった。
…いいなぁ、楽しそうで………。
とりあえず、僕も重力室のほうへ行かないと…。



重い足を引きずってカプセルコーポレーションの中を歩き回る。
やっぱり迷っちゃったみたいだ。
本当に何回来てもこの家の中は迷宮みたいだ。
ブルマさんたちは迷うことないのかなぁ…。
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、不意にブルマさんが声をかけてきた。
「あら、悟飯君。どうしたの?」
「あ、ブルマさん。なんか迷っちゃったみたいなんですよね。重力室まで行きたいんですけど…」
「ああ、ベジータね。なんだかあいつ、『カカロットのガキを鍛えてやる』とか言って朝から張り切ってたからきっと喜ぶわ」
「はぁ…。張り切っちゃってたんですか…」
「もしかして、悟飯君、乗り気じゃない?それだったら私からベジータに言っておくけど…」
「いえ、そんなことないです!!ただ、僕が最近ちょっとサボっていたから付いていけるかなぁって思って」
「大丈夫よ〜。あんた、あの孫君の息子なんだから」
そう言ってブルマさんはウインクをする。
そして、親切にも僕を重力室へと案内してくれる。
…本当は案内してくれなくても良かったんだけどなぁ。

重力室の前に着くと、ブルマさんはモニタを操作して中のベジータさんに声をかける。
「ベジーター。悟飯君連れて来たわよ〜」
「フン。ずいぶんと遅かったじゃないか」
「フフフ。あんた、楽しみにしてたもんね」
「あのカカロットのガキだからな。手合わせして損はなかろう。とは言ってもずいぶんとトレーニングをサボっているようだがな」
ブルマさんの後ろに僕の姿を認めたのか、ベジータさんの視線は僕を捕らえている。
「………え〜と。お久しぶりです…」
僕のおどおどとした態度を勘違いしたのか、ブルマさんが助け舟を入れてくれる。
「ほら、ベジータ。あんたがこわ〜い顔して威嚇するから悟飯君困っちゃってるじゃない」
「誰が威嚇してるんだ。オレはもともとこういう顔だ!」

…あれ?
なんだか、僕達に対する態度とずいぶん違うなぁ。
ベジータさんっていつも斜に構えているもんだと思ってた…。

「あんまり悟飯君のこといじめないでよ〜」
ブルマさんは楽しそうにモニタ越しにベジータさんと話をしている。
その姿はまるで女の子のようで、かわいらしい。
きっとベジータさんとこういう風におしゃべりしているだけでも嬉しいんだろう。
そんなことを僕が思っていると。
ブルマさんが僕のほうを振り返る。
「悟飯君、悪いけどベジータの相手してやって」
僕に逃げ道は残されていない。
確かにトレーニングをサボっていた僕が悪いんだ。
と自分に言い聞かせて。
大きく深呼吸をすると重力室へと入っていった。






……………ここ、どこだったっけ…?
お母さんの声もしないし、なんだか天井が高い気がするし………。
そしてハッと飛び起きる。
情けないことに僕はベジータさんにみっちりしごかれてダウンしてしまっていたらしい。
僕は、来客用の部屋の大きなベッドに寝かされていた。
体を起こそうとしてものすごい痛みに襲われる。
「痛たたたたた…」
本当にベジータさんは手加減というものを知らない。
トランクス君相手にもあんな調子なんだろうか?
だとしたらきっとトランクス君はものすごく強くなる…と思う。
そんなことをしばらく考えてから何気なく窓の外を見る。
午後の穏やかな陽射しが広大な庭に降り注いでいる。



………あれ?
あの大きな木の木陰で寝てるのって………ベジータさんかなぁ。
気を探ってみると案の定ベジータさんの気だ。
腕を組んで巨大な木に背を預けて寝ている。
さわさわと風がそよいで。
その巨大な木の枝が揺れる。
そして姿を現したのは。
ベジータさんの肩に頭を乗せて一緒に寝ているブルマさんの姿。
さっきまではちょうど枝の陰に隠れて見えなかったのだ。
「うわぁ…」
あまりにも幸せそうな、穏やかな雰囲気に僕は驚いてしまった。
だって、あのベジータさんが…。
この地球を征服しようとしていて、僕のことも殺そうとしていたベジータさんが…。
ブルマさんに寄り添って昼寝しているなんて。
きっとこんな姿を僕に見られたって知ったらベジータさんは逆上しちゃうだろうから、黙っておこう。
照れ隠しだったとしてもあの重力室での手加減のなさを考えると、僕本当に殺されちゃいそうだから…。

それにしても、なんて甘い光景なんだろう。
家のお父さんとお母さんは、もっと、こう…。
そう。
いかにも『お父さん』と『お母さん』なんだ。
こんな風に恋人同士みたいな雰囲気じゃない。
見ていて決していやな気分がするわけじゃないんだけれど、でも。
木陰で気持ちよさそうに眠るブルマさんとベジータさんの姿を見るのはちょっと照れくさい。

このままここに居てもなんだし、とりあえず悟天たちを探しに行こう。
僕は光の庭の光景に背を向けた。





気を探って悟天とトランクス君の所へと向かう。
僕達はしばらくテレビを見たり色々な話をしたりしていた。
きっとトランクス君の少しませたところはブルマさん似なんだろうなぁ、と思いながら。
「そういえば、さっきおじさんとおばさん一緒にお昼寝してたね」
悟天が無邪気な顔でトランクス君に言う。
「うん。大体いつもああやって一緒に昼寝してるよ」
こともなさげに答えるトランクス君に驚いたのはこの僕だけ。
「えぇ?!あれ、普段からそうなの?」
「うん。なんで?」
「……い、いや。別にいいんだけど、仲いいんだね、トランクス君の家は…」
「そうかなぁ。確かにいつもママはパパと一緒に居るけどね」
「そ、そうなんだ…」


僕達の会話はブルマさんの声でさえぎられる。
「ご飯できたわよ〜」
いい加減お腹が鳴りそうだった僕達は急いで食堂へと向かう。
そこにはすでにベジータさんが座っていて。
僕を見ると口の端を上げてニヤリと笑う。
「ずいぶんとなまっていたようだな」
「ハハハ…」
トレーニングのときのことを話題に出されると苦しい…。
でも、ブルマさんと寄り添って昼寝していた姿を思い出すと威圧感もかなり減る。

「はい、どうぞ。しっかり食べてちょうだいね。うちにも大食漢がいるから心配はしないでいいから」
そう言ってブルマさんが食事を山ほど運んでくれる。
一通り運び終わるとブルマさんはベジータさんの隣に座る。
どうもそこが定位置らしいんだ。
ベジータさんはもくもくとひたすらご飯を食べているんだけど、ブルマさんはそんなことお構いなしにベジータさんに話しかける。
で、よく見ると。
ブルマさんの手がずっとベジータさんの腿の上に乗ってるんだ。
もう、どうしてこんなに恥ずかしいこと普通にしてるんだろうこの人たちは…。
こっちが赤面しちゃうよ…。
「あら、悟飯君。どうしたの?顔赤いわよ」
………ブルマさんたちのせいですから!
「あ、分かった。さっき食べた料理辛かったんでしょ!」
………っていうよりブルマさんたちが甘い雰囲気作りすぎなんですよ!
でもそんな風に突っ込めないのが僕。
きっとこれがお父さんだったら『なんだ、おめぇら。ずいぶん仲いいんだな〜』とか言って普通に突っ込みいれちゃうんだろうなぁ。
ベジータさんもブルマさんが常に体のどこかに触れていることを特に何とも思っていないみたいだし…。
っていうことは、この2人絶対に普段からこうなんだ。


「ベジータ。ご飯粒着いてるわよ」
そう言ってブルマさんは自然な動作でベジータさんの口の端についてるご飯粒を取って口に運ぶ。
「…………」
ベジータさんは全く動じずにご飯を食べ続けている。
ということは、これも普段からこうだってこと?!
毎日食事のたびにブルマさんはベジータさんの隣に座って体のどこかに触れながらおしゃべりして、ご飯粒が着いてたら普通にとってあげちゃうんだ?


これは………。
すごいものを見てしまった気分。
トランクス君はブルマさんたち同様、それが日常風景なのか全然気にした様子もなく食べ続けている。
悟天は訳が分かっていないのか、それともやっぱりここにしょっちゅう遊びに来ているからこれが普通だと思っているのか…。
僕一人が恥ずかしがってドギマギしているみたいだ。


「ご飯、美味しくない?」
ブルマさんが僕の様子に気付いたのか少し心配そうにこっちを見ている。
「いや、そんなことないですよ。とっても美味しいです」
そう言ったものの。
ご飯の味よりも何よりもブルマさんとベジータさんのラブラブぶりが気になって仕方がない。
だって、あのベジータさんが………。
本当に、本当に怖かったのに。
ブルマさんがベジータさんをこんな風に変えちゃったんだろうなぁ。
やっぱりブルマさんは天才なのかも。







食事も終えて、皆が寝静まってしまった頃。
僕はのどが渇いてしまって水をもらいに行くことにした。
確かキッチンはホームシアターに隣接していたはずだから、この廊下を曲がれば…。
「ん、もう。ベジータったら」
ブルマさんの声が聞こえる。
そして、そして……………。
2人のキスシーンがシルエットとなって僕の目に飛び込んでくる。
ど、ど、ど、どうしよう…。
とりあえずベジータさんに気付かれる前に早く気を消さないと。
2人は僕に気付かずに触れるだけの優しいキスを繰り返して。
それから、熱のこもったキスをする。
その熱は徐々にヒートアップしていって…。


さすがに僕はそれ以上あの場にいられなくて急いで部屋へと帰ったんだ。
だって、ねぇ。
邪魔したら殺されそうだし、邪魔しなくてもベジータさんに気付かれたらやっぱり殺されそうだし…。
何よりも僕には刺激が強すぎたから。






次の日の朝。
とても眠そうなブルマさんと妙にすっきりとした顔のベジータさんを見て、僕は思わず昨日の続きを想像してしまいそうになる。
そんな自分を抑えてご飯を食べる。
目の前で繰り広げられる、それこそハートが飛び交っていそうな光景。



そんな光景を見ていたら、なんだか僕はとってもビーデルさんに会いたくなってしまって。
急いでベジータさんとブルマさんの愛の巣であるカプセルコーポレーションを後にした。




End   <2005.09.02up>




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