ここは悩める者たちが集う場所。
-BARカカロット-
今日も男が一人、薄暗いカウンターでキャロットジュースを傾けていた。

BAR カカロットへようこそ

第一章 未来から来た青年とそのオヤジ

「トランクス、飲みすぎだぞお」
BARカカロットのマスター孫悟空は、カウンターの片隅で8杯目のジュースをあおっている男に、9杯目のキャロットジュースを差し出した。
「今日はいいんです。オレだって、たまには飲みたい時もあるんですよ」
「ふーん、そっか」
BARカカロットのマスター孫悟空はトランクスに優しく微笑むと、先ほどまで乾燥させていたバカラのグラスをいくつか取り出し、キュッキュと磨きだした。
その様子をトランクスはしばらく眺めていたが、ふと、絞り出すような切なげな声を出した。

「悟空さんは・・・恋をしたことがありますか?」

トランクスは手持ち無沙汰のようにグラスの氷をカラカラとならすと、頬杖をついて、ふぅっとため息をひとつついた。
そしてまたグラスに視線を戻し、少し首をかしげると、その拍子にすみれ色の前髪が一筋、トランクスの額からはらりと落ちた。
この青年はトランクスと呼ばれている。若かりしころの自分の母親、ブルマに恋焦がれるおかしな男だ。

「恋ー?!うまいのか?それ」
孫悟空はトランクスの気持ちを知ってか知らずか、彼特有の明るすぎる調子で、とぼけたことを云った。

「そうですね・・・うまいというより、少し・・・苦い・・・かな」

トランクスはちょっとキザだったかな、と云うと照れくさそうに笑った。
なんともいえない、いい笑顔である。


カラランッ。

BARカカロットの入り口のドアに取り付けてあるアンティークなベルが鳴り、黒髪の、小柄だが他を圧倒するような鋭い目つきをした男が現れた。

「なんだ、貴様も来ていたのか、トランクス」
「父さん」
この青年に父さんと呼ばれた男は、我らがサイヤ人の王子様、べジータである。
「こんな夜更けに家を抜け出してもいいんですか」
「かまわん」
べジータはトランクスと反対側の隅に腰をかけると、野菜ジュースをダブルで、と云った。

「ブルマとケンカでもしたのかぁ、べジータ」
孫悟空は例の軽い調子でそう云うと、特注のビッグサイズのジューサーに人参やらゴボウやらを豪快に突っ込みスイッチを押した。
「フン、貴様の家と一緒にするな」
「ははは。オラんとこは喧嘩じゃねぇさ。オラがチチのやつに怒られてばっかなんだ」
「貴様のことなど、知るか」
べジータは差し出された野菜ジュースを、ぐいっとあおった。
「父さん、本当は母さんが怒るようなことをしたんじゃないですか?」
トランクスはべジータの様子を横目でうかがっている。
「あの女が怒ったところで、オレには関係のないことだ!」
べジータは半分ムキになってグラスをカウンターに叩きつけた。
「そうですか・・・」
トランクスはそっけなく云うと、胸のポケットから携帯電話を取り出し、ボタンをプッシュし始めた。

「おい貴様、何をしている」
「何って、母さんに電話をするんです。これからオレに付き合ってもらおうと思って。夜更けといっても、母さんなら、まだまだ宵の口ですからね」
トランクスはべジータにかまわず、携帯のコールを鳴らし続けた。

「何故、ブルマが貴様に付き合う必要がある」
べジータは乱暴にトランクスから携帯を奪い取ると、電源をプツッと切った。

「父さんは、先ほど母さんのことは関係ないと云ったじゃないですか。それなら、オレが母さんと何をしようが、あなたには関係ないはずだ!」
トランクスは何をしようが、のあたりに特に力を込めて云った。
案の定、べジータに怒りの表情がうかんだ。

「貴様、自分の父親に向かって喧嘩を売るつもりか、いい度胸だ・・・」
べジータとトランクスは椅子から立ち上がると、にらみ合いを始めた。

「まぁまぁ、べジータもトランクスもよう、おちつけって」
孫悟空は2人の肩をポンポンと叩くと、再び椅子に座らせた。
「とにかく。母さんはあなたに任せておけないですから、オレは・・・あなたから母さんを奪い取ってみせますよ。そのために未来の世界で死ぬほど修行をしたんですから」
「フン。あいつは・・・ブルマはこのオレに随分と惚れているようだからな。残念だったな、貴様の出る幕などない」
べジータは自信満々に答え、今度は自分の携帯をポケットからゴソゴソと取り出すと、ブルマの携帯番号を呼び出した。

(はぁーい。べジータ!今どこよ?)
電話口から甲高い女の声が漏れた。
「カカロットのところにいる。未来から来たトランクスも一緒だ」
(ふーん。どうでもいいけど早く帰ってきてよね。もう怒ってなんかないわ。
それにあたし、ちょーっと酔っ払っちゃってるみたいで、身体が火照ってしょうがないのよ。
早くべジータと・・・したいわ・・・なーんちゃってね!」
ブルマは冗談とも、本気ともとれない口調で云った。
電話の中のブルマの声は外に漏れ、トランクスにもばっちり聞こえているはずだ。そのために携帯の通話音量はいつでも最大にしてあるのだから。
「だとさ・・・。来たばっかりで悪いが、ブルマがうるさいからな。」
べジータは勝ち誇ったようにトランクスを見ると、1万ゼニーをカウンターにすっと置くと、こいつの分も取っておけと云い残し店を出た。

「くっ!オレと父さんと、一体何が違うと云うんだ!母さんは何故、オレだけを見てくれないんだ!」
後に残されたトランクスは、両手の拳をダンッとカウンターを打ちつけ、硬く目をつぶった。


「いやぁ・・・親子だから、じゃねぇかな・・・」
孫悟空は独り言のようにボソリと云った。


恋や、金や、戦いや・・・いろんな悩みを持った者達が集まる場所。
-BARカカロット-
365日年中無休、深夜5時までの営業です。
今日もマスターカカロットこと孫悟空が、あなたの悩みをやさしく聞いちゃいます。

またのご来店お待ちしております。


あとがき
なれそめSSが行き詰ったので、軽い気持ちで書けるものを・・・と思い書いたSS。
DBの時間軸を無視したストーリーで、好き勝手に営業して行こうと思ってます。
次回のお客様は・・・誰にしようかな。

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