ここは悩める者たちが集う場所。
-BARカカロット-
まだ開店前だというのに、タバコをふかしながら、
マスターの孫悟空を相手に、他愛もないお喋りを楽しんでいる女がいた。

BAR カカロットへようこそ

第二章 灰皿にキスをする男


「ねー、ビールくれない?」
女はスラリとした長く美しい指で、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
その女の名はブルマ。
西の都のカプセルコーポのご令嬢であり、二代目社長であり、なによりもそのたぐいまれなる美貌と、
天才的な頭脳で世界中の人々を魅了していた。
「ビールなんておいてねーぞぉ」
「えー?!ここバーじゃなかったっけ?ビールがないならウイスキーでいいわよ」
「ういすき?なんだ、それ?うまいのか?」
「あのねぇ。あんたマスターじゃなかったの?」
「そうだけどさぁ」
孫悟空は棚から何本かのビンを取り出し、ニンジンと一緒にミキサーに混ぜ込んだ。
「ちょっと!!あんたそれジュースじゃないの?なんで、バーまで来てジュースなんか飲まなきゃいけないのよ!!」
「まぁ、飲んでみろって」
孫悟空は出来たてのミックスジュースをブルマの前に差し出した。
ブルマはしぶしぶそれを口に運んだ。
「あら?おいしいじゃない」
「だろー?べジータやトランクスも、よくこれを飲みに来るんだぞ」
「へぇ?べジータがねぇ・・・」
ブルマは以外そうな顔をした。


ガラランッ。

出入り口のドアに取り付けてあるアンティークな鈴が、一人の男の出現と同時に鳴った。
その男は、開店時間ぴったりの24時に現れた。
「よお、べジータ」
孫悟空は人懐っこい笑顔で、右手を軽く上げた。
「あら、べジータ」
ブルマもそれにつられて振り向いた。
「なんだ、貴様も来ていたのか」
「なんだって、あんた・・・それが愛しい女性に対していうセリフ?」
「チッ」
べジータは口うるさいブルマを避けて、反対側の隅に座った。
そして、いつものやつ、と注文をすると、ブルマに背を向けるように足を組んだ。
「ふん。いいわよ、あたしは孫くんと話をしにきたんだからねー。あんたなんか一人で飲んでなさいよ」
ブルマはあからさまに自分を避ける態度に腹がたって、べジータに向かってアッカンベーをすると、
ハンドバッグからタバコを取りだし、カチカチと火をつけた。

「おい」
べジータが背を向けたまま、ブルマに話かけてきた。
「何よ?」
「ここは禁煙だ」
「はぁ?何言ってんの?灰皿がちゃんと置いてあるじゃないの。
だいたいねー、酒も飲めない、タバコも吸えないバーなんか、何の意味があるっていうのよ!!」
酒が飲めないのはべジータのせいではないが、この際関係ない。
ブルマは売られた喧嘩は買うとばかりに言い返した。
「オレがいる間は禁煙と決まっている」
「ふん。あたしが先に来てたのよ!タバコの煙がイヤなら重力室でも行けば?」
ブルマはこれみよがしにタバコの煙をふぅーと吐き出した。
「貴様とは、もう・・・してやらんからな」
べジータはボソッと云った。
「なぁに?それって、あたしとはキスしたくないって云ってるの?
タバコ吸ってるから?・・・ふん。いいわよ、別に」
ブルマは乱暴にタバコをもみ消した。

その時、
ブルマの額が軽く上に向けられ、おでこに柔らかいものが触れた。

「父さんが、母さんとキスしたくないなら、オレがしますよ」
「トランクス!!」
ブルマとべジータは同時に声を上げた。
「よっ!トランクス」
孫悟空は相変わらずマイペースだ。
「貴様、何してやがる!!!」
べジータは今にもぶち切れそうだが、ブルマは少し顔を赤らめて喜んでいるようにも見える。
「見て判りませんか?」
トランクスは余裕の表情でべジータをチラリと見下ろし、ブルマの隣に座った。
「悟空さん、いつものをお願いします。母さんにも同じものを・・・」
トランクスはいかにも常連ぽく、慣れた様子で2人分をオーダーをする。
「ありがと、トランクス」
「いえ・・・。結構いけるんですよ、このドリンクは」
トランクスとブルマはまるで恋人同士のような近寄りがたいオーラを放っている。
べジータは息子の突然の出現に、それもオデコとはいえ、自分の目の前でブルマにキスをしたトランクスを思いきり睨みつけた。
「なんですか?父さん。あなたはさっき、タバコを吸う母さんとは、キスなんかできないと云っていたじゃありませんか」
「フン。当たり前だ」
「それならオレが母さんと何をしようが・・・あなたには関係のないことです」
「何?・・・それが実の父親に向かっていうセリフか。すいぶんと偉くなったものだな、トランクスさんよ」
「オレだって、未来の世界では人造人間やセルを倒しましたからね・・・
いつまでも子供扱いはしないで欲しいですね」
「ガキが・・・殺されたいか」
「あなたとは、いつか決着をつけなければいけないと思っていました。
いい機会ですから、母さんをかけて勝負しましょう」
「ちょっと!!トランクス、何云ってるのよ!」
ブルマは自分が賞品になったことに抗議したが、2人の耳にブルマの声は届いてはいないようだった。
「いいだろう。久々に面白いゲームができそうだ・・・」
べジータとトランクスは、今にも超化しそうな勢いで気をスパークさせた。
「まあまあ、べジータもトランクスも落ち着けって」
そんな2人を見かねた孫悟空が、2人の肩を強引に掴み、無理やり席に座らせた。
「なんだよ、べジータもトランクスも・・・仲良くしねぇとダメだろ」
「父さんがいけないんですよ」
「トランクス!あんた、どうしちゃったの?」

「母さん・・・いえ、ブルマさん。オレと父さんとどっちが大切ですか?」
「・・・」
トランクスの突然の質問に、ブルマは一瞬間をおいた。
息子と旦那のどちらが大切かなんて、そんなもの答えられるわけがない。
もっとも、チチなら迷わず子供を選んだのだろうが・・・。
べジータも興味ないような素振りをしていたが、しっかりと耳を傾けていることがわかる。
「うーん・・・そうねー」
ブルマは慎重だった。答えによっては、大変な戦いが始まってしまう。
ブルマに気は読めないが、べジータもトランクスも先ほどの様子では本気で戦うに違いない。
そうしたら、どちらも無事にはすみそうにないことぐらいブルマには判っている。

トランクスは真剣な目でブルマをじっと見ている。
ブルマはすっと手を伸ばし、トランクスの頬を両手で挟み、華のようにあでやかに、そして優しく笑った。
「か、母さん?」
トランクスの頬がさっと赤く染まった。
「一番大切なのは、あんたよ、トランクス・・・」
トランクスは嬉しさのあまり、ブルマを抱きよせようとした。
が、それは次の言葉によって打ち砕かれた。

「それから、あたしが愛してるのは、べジータ・・・」
べジータの肩がピクリと動いた。
「つまり、それは・・・?」
トランクスは恐る恐る聞いた。

「つまり、それはこういうことだろ?」
べジータはいつの間にかブルマの腰をぐいっと引き寄せていて、トランクスと悟空に見せ付けるように、ブルマのルージュのついた唇をぺろりと舐め、自分の舌を侵入させた。
ブルマは美しく眉をよせ、小さく喉をならした。
べジータは視線だけをトランクスにやりながら、悶えるブルマを勝ち誇ったように押さえつける。

「ひょえー・・・」
孫悟空はその展開にあっけに取られている。
トランクスも自分の見たことのない、ブルマの艶やかな表情に言葉を失っていた。
そして猛烈な嫉妬と絶望が交互にやってきて、力なくうなだれた。

べジータはブルマにこれ以上喋らせないように、息ができなくなるほどきつく抱き、
「そういうことだ」
と云うと店を出て行った。

後に残ったのは、肩を落として拳をテーブルに叩きつけるトランクスと、
あんぐりと口をあけっぱなしの孫悟空。
それから、ルージュのついた2本のタバコだけだった。

「母さんッ・・・」
トランクスは悲痛な声をあげた。

孫悟空は無言でトランクスの前に、絞りたてのベジタブルドリンクを置いた。

夜が明けまでは、まだまだ時間がありそうだ。
しかし、孫悟空は扉にかかっている札をクローズにひっくり返すことにした。

恋や、金や、戦いや・・・いろんな悩みを持った者達が集まる場所。
”BARカカロット”
365日年中無休、深夜5時までの営業です。

今日もマスターカカロットこと孫悟空が、あなたの悩みをやさしく聞いちゃいます。
またのご来店お待ちしております。


続く

あとがき
タイトルだけは決まっていたのですが、ブルマ以外のキャストが決まっていなかったSSです。
でも、久々にキーボードが軽かったです!
やっぱりこの展開が一番書きやすいし、好きみたいです。
サイトの内容がベジブルとトラブルですから、個別にブルマに絡ませることもないんですよね。
そして、この3人を上手く引き立ててくれる、孫悟空!!
おいしい役かもー(><)q

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