ここは悩める者たちが集う場所。
"BARカカロット"
2人の男がカウンターの真ん中に陣取り、しんみりとグラスを合わせていた。

BARカカロットへようこそ

第四章 恋と男とやさしい女



「お前もブルマに惚れたのか、トランクス」
男は整った顔つきで、中肉中背、肩までかかるクセ毛が印象深い。
そしてなによりも、右目にある深い傷痕が、男が戦士であることを物語っていた。
男の名前はヤムチャ。かつては荒野のヤムチャと呼ばれた盗賊だった。


「惚れたなんて、そんな・・・・。
第一、ブルマさんは世界が違うとはいえ、オレの母親ですから・・・」
このトランクスと呼ばれた男、いや、男といってもまだ少年の面影を残しているのだが・・・
どうやら、自分の母親に恋慕しているらしい。


「まあ、あれだけの女だからな・・・
お前が好きになるのも無理ないよな。それに、こっちのブルマはまだ若いしなぁ」
「ヤムチャさんこそ、どうして15年近くも付き合ってきたのに別れちゃったんですか?」
「うん?ああ。なんでかな?オレが知りたいよ」
ヤムチャはやけになり、グラスの中のドリンクを飲み干した。



「ヤムチャ、もう一杯どうだ?今日はいい野菜が手に入ったんだ」
マスターの孫悟空がミキサーに新鮮な野菜を放り込んだ。
「ああ、たのむ。・・・氷抜きでくれないか」
「じゃ、オレにもヤムチャさんと同じやつをください」


「それにしても・・・
落ち着いていて、なかなかいい雰囲気の店を知っているじゃないか」
ヤムチャはぐるりと見回した。
店内はカウンター席のみのこじんまりとした作りだったが、それほど閉鎖間がないのは天井が高いせいだろうか。
「ええ。
父さんもよく来ているみたいですよ。もっとも来る時間帯が違いますけどね」
「へぇ。べジータがなぁ」
ヤムチャはあのべジータがというような表情を浮かべた。

悟空がグリーンの液体の入ったグラスを、ヤムチャに差し出した。

「ところでさ、悟空、お前どう思う?
ブルマはなんでべジータを選んだんだろうな?」
「ん?オラ知らねぇよおー。ブルマに聞いてみりゃいいじゃねぇか」

「そうですよ!ヤムチャさん。母さんに聞いてみたらどうですか?」
「バ、バカいうな!!そんなみっともないことできないさ!!!」
ヤムチャは渋い表情を作ってみせた。




「それなら、このオレ様が教えてやろうか?・・・なぁ、地球人」
背後から聞き覚えのある声がする。

この偉そうな喋り方は・・・

「べジータ!!!!」
「父さん!」
「よっ、べジータ。今日は早えじゃねぇか」

「何故、ブルマがオレを選んだか知りたいんだろう・・・?」
べジータは腕を組み、じろりとヤムチャを見下ろした。
ヤムチャはべジータの圧倒的な気に押され、固まったように動けずにいた。

「貴様のようなクズヤローじゃなく、この超エリートのオレを選んだ理由をな・・・」
べジータはニヤリと口元を歪めた。

「父さん!!そんな言い方ないじゃないですか!!
いくらヤムチャさんが弱いからって!!!」
トランクスは突然話に割り込んできたべジータに向かって、はげしく抗議した。
「おいおい、トランクス?!オレはへたれかよ?!」
ヤムチャはトランクスの言い草に突っ込みを入れたが、
頭に血が上ったトランクスには聞こえていないようだった。


「だいたい、父さんが母さんに愛されているって、どうしてわかるんですか?!
オレが生まれたのだって、つい、なんとなくだったのでしょう!?」

「貴様など、なんとなく生まれたガキで十分だ」
べジータは面白そうに高笑いをした。

「くっ!!
あなたって人は・・・!!!
自分の息子に向かって、よくもそんなことが言えますね!!」
トランクスは今にもぶち切れそうだ。
「貴様が自分で云ったことだろうが・・・何を興奮してやがる」
べジータは隅の席に座り、いつものドリンクを注文した。

「帰りましょう!!!ヤムチャさん!!
こんな男と同じ空間にいることが、オレには耐えられない!!」
トランクスは胸のポケットから一枚の黒いカードを取り出し、孫悟空に渡した。

「ついでですから、この男の分も清算しておいてください」
トランクスはべジータから視線を外さずに、孫悟空に云った。

「フン。なにを格好つけてやがる・・・」
べジータはスキにしろというように、足を組み、近くにあった雑誌に目を通し始めた。

「なぁ、トランクス。お前、どうしたんだよ。
いいじゃないか、べジータと一緒に飲んだって」
ヤムチャは雰囲気の悪くなった2人の間に入り、なんとか関係を修復しようとトランクスを席に座らせた。

「せっかくの酒、あ、いや、野菜ドリンクか・・・が、まずくなるだろ?」
「でもヤムチャさん、オレはこんな男のいないところで、
あなたと語りあいたい」
トランクスは落ち着きを取り戻し、ヤムチャにすまなそうに俯いた。

「お前がブルマのことをもっと知りたいってなら、いつでも相談にのるさ。
オレでよければな・・・」
「すみません。ヤムチャさんは母さんの恋人だった人なのに・・・」
「ははは、過去形か・・・はっきり言われると寂しいものがあるな」


「フン。負け犬同士がいくら相談したところで、ブルマは貴様らなど見向きもしないぞ」
べジータは会話を聞いていたらしく、話に割り込んできた。
もっとも狭い店内なので、聞きたくなくても耳に入ってきてしまうのだが。


トランクスの額に青筋が浮かんだ。
それを見たヤムチャが、トランクスをなだめるように袖を引っ張る。
「いいさ。お前はともかく、オレは結果的に、ブルマにふられたんだしさ」
「ほう。ものわかりのいい地球人だな・・・
トランクス、貴様もそいつのようにさっさとあきらめて、未来へ帰るんだな」
「あきらめる?オレがですか?」
トランクスはべジータの側につかつかと寄っていき、べジータの前にあったグラスを握りつぶした。
「では、賭けをしましょうか。
母さんが選ぶのは、あなたか・・・それともオレか。
負けたほうは潔く手をひくこと」
「フン。いいだろう。ゲームのルールはどうする?」
べジータも面白そうに話に乗ってきた。
「ルールは簡単です。
母さんをこの場に呼んで、オレか、父さんかのどちらかを選んでもらうだけです」
べジータとトランクスは額にうっすら汗を浮かべ、お互いににらみ合った。
「お、おい!!やめろよ2人とも!!
ブルマがどっちかを選ぶわけないだろう!!!」
ヤムチャが慌てて2人を引き離す。

トランクスの頭の中には、既に、ヤムチャとの男の語り合いの事は消え失せているようだった。
「ヤムチャさんは黙っていてください!これはオレと父さんの男の戦いでもあるんですから!」



「なーにが、男の戦いよ!バッカじゃないの!!!」
店内に甲高い声が響いた。
孫悟空の腕につかまり、こちらを睨みつけるその女性は・・・


「母さん!」


どうやら、孫悟空が瞬間移動でつれてきたようだ。
「丁度いいじゃないか、トランクス。
ブルマをつれてくる手間が省けたな・・・」
「・・・そうですね・・・」

「あたしはどっちも選ばないわよ!!」
ブルマの言葉に、べジータの目が大きく見開かれた。
「でも・・・そうねぇ・・・
べジータが毎日あたしの買い物に付き合ってくれて、毎晩一緒に飲んでくれるなら・・・
この賭けに付き合ってやってもいいわよ」
ブルマがパチンとウインクをした。

「オレ付き合いますよ」
トランクスがそんなことはなんでもないというように、ブルマに申し出た。
「ダメよ。あんたじゃ普通すぎるわ。
惑星べジータの王子さまのべジータに、やってもらうからいいのよーー?
ねぇ、べジータ?」
ブルマはいやらしい目つきでべジータを覗き込んだ。
「チッ。くだらん」
べジータは面白くなさそうに顔を背け、去っていった。
「父さん!逃げるんですか!」
トランクスはべジータの後を追うように席を立ち上がったが、ブルマのキス攻撃にあい硬直した。
「あたしはあんたのことを愛しているわ。誰よりもね!」
そういうとブルマは自分より背の高いトランクスの頬を挟み、もう一度キスをする。
「・・・あの・・・」
トランクスの頬が蒸気し、首筋まで真っ赤に染まっている。
ブルマはそんなトランクスを見て、ニコッと笑い、孫悟空の方に顔を向けた。


「じゃ、またくるわ。ありがと孫君!」
「ああ、またな!」



店内には、元の通りトランクスにヤムチャ、そしてマスターの孫悟空だけが残った。

「は、はは。
結局オレは、父さんには勝てなかったってこと・・・なんでしょうね」
トランクスは半分やけになったように、荒っぽくグラスを煽った。

「いや、お前なんかまだマシさ。
オレなんか・・・オレなんか、名前すら呼んでもらえなかったぞ。ちくしょう」

2人の男は、恋についてグダグダと語りはじめた。




「おめぇら、閉店だぞー」
孫悟空は2人の酔い(?)つぶれた男を、軽々とつまんで外に放り出す。

空は既にしらじらとして、新しい一日が始まろうとしていた。


恋や、金や、戦いや・・・いろんな悩みを持った者達が集まる場所。
”BARカカロット”
365日年中無休、深夜5時までの営業です。

今日もマスターカカロットこと孫悟空が、あなたの悩みをやさしく聞いちゃいます。
またのご来店お待ちしております。





あとがき
不完全燃焼気味で、すみません。

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