ここは悩める者たちが集う場所。
"BARカカロット"
開店したばかりの店内に、BARにはふさわしくない、珍客がやってきていた。

BARカカロットへようこそ

第六章 二人のトランクス



「わー。父ちゃん、こんなかっこいいお店をやっているの?」
無邪気に店内を見回したり、うろうろと駆け回っているのは、カカロットこと孫悟空の二番目の息子、孫悟天。
「うん、おじさん見直したよ」
小生意気そうに、ちゃっかりとカウンターの真ん中の席を陣取っているのは、
BARカカロットの常連客で、惑星ベジータの王子様であるベジータの息子、トランクス。

「おめぇたちには、この場所は、まだ早えけどな」
孫悟空はそういいながらも、二人にピンク色のドリンクを作ってくれた。

「ミルクキャロットだ。うまいから飲んでみろ」
「えーー?ほんとかよ?」
トランクスは、その液体を口に含んだが、すぐに吐き出した。
「ブフォッ!!」
「うわっ!きったないよ、トランクスくん!!」

トランクスはトイレに駆け込んだ。

「そんなにまずいのかな?」
悟天はおそるおそる口に含んでみたが、
ミルクとキャロットの組み合わせは、ほんのり甘く、悟天の口にあうものだった。
「おいしいよ、これ」
「だろ?だからうまいって言ったじゃねぇか」
孫悟空は、悟天のグラスに、おかわりをついでやった。




・・・ガラン

BARの扉が静かに開いた。
そして一人の男が、のぞき込むように、店内に足を踏み入れた。

「よっ。トランクス!」
孫悟空が軽く片手をあげ、その男に合図をすると、悟天も入り口に顔を向けた。

「悟空さん!・・・・と、えーと?」

トランクスは、同じ顔が二つあることに、少々とまどっていた。
「オラの息子の悟天だ。
ほら、ちゃんとあいさつしろ、悟天」
孫悟空が悟天の頭に手をやり、トランクスに紹介をした。
「こんにちは・・・」
「こんにちは、悟天くん。オレはトランクス」
トランクスは悟天の目線までかがみ、(といっても椅子に座っているので、それほど低くはないが)
自己紹介をした。
そして座り慣れた、いつもの端の席に腰を下ろした。

「悟天くんは、お父さんに何を作ってもらったの?」
トランクスは、悟天の前に置いてある、ピンク色のドリンクを指差した。
「えーとね・・・えーと、ミルクキャロットだよ」
「じゃ、オレもそれをください」
トランクスは、悟空に爽やかな笑顔を見せ、オーダーをすませた。


一方、トイレに駆け込んでいたトランクスは・・・
十分に口をすすぎ、サッパリしたところで店内に戻ろうとしたが、
目に入ったのは、未来からきた自分の姿と、楽しそうに話をしている悟天の姿だった。

(なんで、未来のオレが来てるんだよ)
トランクスは、途中まで開けた扉を、また閉めた。
(なんか出て行きづらいよなー。悟天も楽しそうにしてるしさ)
トランクスはトイレの扉にへばりつき、しばらく中の様子を伺うことにした。


「オラの特製ミルクキャロットドリンクだ。うめぇぞ」
悟空はトランクスに、ビッグサイズのジョッキを差し出した。
「ありがとうございます」
トランクスはお礼をいい、ゴクリと喉を鳴らして飲み始めた。

(う・・・なんだこの味は・・・)
トランクスは一瞬顔をしかめたが、すぐに笑顔に戻り、おいしいですねと云った。
「だろ?」
孫悟空も、満足そうに笑う。

二人の男が笑顔を見せると、爽やかな風が店内を吹き抜けたようだった。


(おいおい、なんだよ、あの雰囲気は・・・)
トランクスは、だんだんと不機嫌になっていくのを感じた。


「悟天君が小さいオレと仲良しだって、こっちの母さんから聞いたことがありますよ」
「うん、一番の仲良しだよ!」
「そうですか。それは良かったです」
「大きいトランクスくんには、仲良しはいないの?」
「え、ええ・・・
仲良しというか・・・尊敬している人はいましたが、
オレをかばって死んでしまいました。
悟天君のお兄さんの・・・未来の悟飯さんですよ」
「ふーん。兄ちゃんか」
「でも、仲良しというと・・・ちょっとニュアンスが違うかもしれないな。
オレには悟天君のように、一緒に遊ぶ友達はいなかったかな」
トランクスは寂しげに笑った。

「ふーん・・・そっか」
悟天もトランクスにつられ、しんみりとする。
「じゃあさ、ボクが大きいトランクス君とも、仲良しになってあげるよ」
悟天はトランクスの顔を覗き込んだ。
「え?悟天君が?」
トランクスは、悟天の思いがけない言葉に、目頭が熱くなった。

「悟天君はやさしい子ですね」
トランクスは悟天の頭を、ポンポンと優しく触れた。
悟天もトランクスのあたたかい手に触れられ、まんざらでもなさそうだ。

(ちぇ、なんだよ悟天のやつ!)
もう一人のトランクスは、心の中で悪態をついた。

「でもさ、大きいトランクス君は、こっちのトランクス君とは全然違うね」
「そんなことはないですよ。両方とも同じオレですから・・・」
「えー!!違うよ!
だってさぁ、こっちのトランクス君はさ、
人使いは荒いし、態度もでかいし、わがままだしさ・・・」
悟天は、トイレに駆け込んだトランクスの存在を、すっかり忘れているように愚痴った。

「ははは・・・」
(それって、父さんそっくりってことじゃないですか・・・それとも、母さんのほうかな?)

「それにだよ、トランクス君は、自分のママと結婚しようと思ってるんだ!!」

「え!?」

悟天の爆弾発言に驚いたのは、トランクスだけではなかった。
孫悟空も目をみはった。
「ほぇーー。チビのトランクスもブルマが好きなのかよ」


そして、トイレの中でも1人・・・
(バ、バカ悟天!)

周りの反応の良さに、悟天は調子にづいた。
「この間なんてさ、ひどいんだよ。
ボクにね、トランクスくんのパパの見張りをやれっていうんだ。
その間に、ブルマさんと仲良くやるっていうからさぁ。
おかげでボクは、ベジータさんに散々しごかれてボロボロだったよ・・・
それでね・・・」

「おい!!悟天!!」
勢いよくトイレのドアが開かれ、小さいトランクスが現れた。

「おめぇ、ずいぶんなげぇ便所だったなー。便秘か?」
「違うよ!下品なこと言うな!」

「あ、トランクス君・・・忘れてた!」
悟天は、しまったという顔をし、大きいトランクスの陰にそそくさと隠れた。

自然に2人のトランクスが、向き合う形になる。

「初めまして、オレはトランクス。・・・つまり約20年後のキミです」
大きなトランクスは奇妙な自己紹介をし、小さなトランクスに握手を求めた。

小さなトランクスは、その手をパンと払いのける。
「オレはお前みたいに、弱そうじゃないぞ!」
「はは・・・弱そう・・・ですか」
「トランクス、この兄ちゃんはな、おめぇの父ちゃんと同じくれぇ、強ぇんだぞ」
孫悟空は、その場の空気が重くなったのを察して、二人の間に入った。

「本当?!
・・・ということは、オレは将来、パパに勝てる可能性があるってことだな!?」

「ええ、まぁ・・・ベジータさん以上のトレーニングを死ぬ気でやれば、
勝てる可能性がないわけじゃありませんが・・・
それより、キミはベジータさんに勝って、どうするのですか?
もうこの世界は、平和になったんでしょう?」
「まあな。
・・・・・・今さら隠してもしょうがないからな、お前に教えてやるよ。
オレはパパを倒して、ママと結婚するんだ!」
トランクスは鼻息を荒くした。

「・・・なるほど・・・小さくても、やっぱりオレなんですね。
でも、こっちのオレ、つまりキミは、ブルマさんとは親子関係にありますから、結婚は無理ですよ。
それに・・・あなたが大きくなったとき、ブルマさんは、一体いくつになっていると思いますか?」
「う、うるさい!!お前なんかに、オレの気持ちがわかってたまるか!!
帰るぞ、悟天!!!!」
トランクスは、悟天をひっぱり、店を出ていってしまった。

後に残されたのは、大きなトランクスと、孫悟空だ。

「おめぇさー、あれじゃ、トランクスのやつが可哀想じゃねぇか?」
孫悟空は、2人の飲みかけのグラスを片づけながら、トランクスに目をやった。

「・・・・・・。
こっちのオレまで、修羅の道を行くことはないしょう・・・」

トランクスは聞こえるか、聞こえないかくらいの声で、苦しそうにつぶいやいた。

「へ?蛇の道?界王様のところへ行くのか?」
孫悟空は素っ頓狂な声をあげた。

「・・・いえ、なんでもありません」
先ほどのトランクスの様子だと、もう手遅れかもしれない。

やはり、違う次元を生きるオレも、地獄へ落ちるのか・・・



恋や、金や、戦いや・・・いろんな悩みを持った者達が集まる場所。
”BARカカロット”
365日年中無休、深夜5時までの営業です。

今日もマスターカカロットこと孫悟空が、あなたの悩みをやさしく聞いちゃいます。
またのご来店お待ちしております。





あとがき

ちょっとだけ「世界で一番ママが好き」ネタがまじっています。
よろしければ、こちらも読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました!

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