チェックメイト

第五章


研究室のメディカルマシーンを前に、べジータはフリーザのところで使用していた、最新型との機能の違いについてブルマに話しをしていた。
べジータの話を黙って聞いていたブルマは、いくつかのキーワードをホワイトボードに書き記した。

「なるほどね」
ブルマは一人でうなずいたり、トントンと赤いマーカーでボードを叩いたりしていたが、納得した様子で 「うん、なんとかなりそうだわ」とだけ云うと、べジータを振り返り、無邪気な微笑を見せた。

警戒心のないブルマの微笑に、べジータは一瞬、居心地の悪さのようなものを感じた。

ベジータはその感情を否定するようにブルマに近寄ると、鋭くその腕をねじ上げた。
「・・・っ!!」
さっきまで普通に話をしていたべジータが、突然怖い顔をして自分の腕をつかんだので、ブルマは痛みよりも驚きで声をあげた。
「貴様・・・以前オレに、自分を利用しろと云ったな」
いつだったか、ブルマの母親が作ったケーキを食べている時にそんなことを云ったかもしれないが、だいぶ前の話で、その後べジータはブルマを避けるようにしていたこともあり、ブルマはそのことを忘れかけていた。
「そ、そうだっけ?」
ブルマはとぼけたような、本当に思い出せないような、微妙な表情をした。
「とぼけるな。随分と、もの欲しそうな顔をしていただろうが」
べジータはブルマとの距離をさらに縮めると、射抜くような視線をブルマに向けた。



「・・・してやってもいいと云っているんだ。」
「え?」
ブルマはべジータの威嚇するような態度に一瞬たじろいだ。
どうやらべジータは、ブルマの頭脳を利用するだけではなく、身体をも提供しろと云っているようだ。
もちろんそれはブルマの望むところだったが、レディに向かってこんな云いぐさがあるだろうか。
全く馬鹿にしている。
べジータからの愛情などは望んでいないが、せめて事を起こすときくらい、もう少しマシな誘い方をしてくれてもいいだろうに。
(雰囲気が大切なんじゃないの、雰囲気が!)

ブルマはべジータに小さな仕返しをしてやろうと考えた。
「そうね、それじゃお願いしようかしら。
だってあんたさ、本当はあたしのこと好きなんでしょ?」
ブルマはべジータの方へ身を乗りだした。
「ねぇねぇ?あたしの髪、綺麗だった?
あたしが研究室でうたた寝をしていた時、あんたはあたしの髪を愛おしそうに撫でてたもんねー」
べジータがこの時、ブルマのことを愛おしく思っていたのかは定かではないが、
この際そんなことはどうでもいい。
べジータがブルマの髪を撫でていたという事実だけで十分だ。
案の定、べジータはぎょっとしたような顔をし、ブルマからパッと手を離した。
(判りやすい反応ねー)
あの研究室でべジータがブルマの髪に触れていた時、ブルマはうっすらと目を覚ましていたのだ。
はじめは何が起こっているのか理解できなかったが、次第にべジータに髪を触れられていることに気づいた。
「貴様・・・・起きていやがったな」
「あんたが起こしたんじゃない」
「だったら、さっさと起きやがれ!」
「あらー?やっとあたしの魅力に気づいたと思ったのに」
ブルマは挑発するように云った。
やはり、こうでなければいけない。
べジータはブルマの魅力に気づき、そうしてからブルマを抱くのだ。
「チ・・・」
何故このオレが、一瞬でもこの女を悪くないと感じたのか。
べジータは苦々しい顔で舌打ちをした。
しかしブルマはかまわず会話を続けた。
「あんた、最近焦りすぎだもの。
少しくらい、戦い以外の楽しいことをしてもいいんじゃないの?」
ブルマの何気ない言葉に、べジータの目つきが一瞬で鋭くなった。
「このオレが焦っているだと?」
べジータは眉間にいっそう深い皺をよせた。
どうやら焦っているという言葉が、べジータを不機嫌にさせたようだ。
「何故、このオレが焦る必要がある」
べジータは静かな、抑えたような低い声音で云った。
「別に深い意味で云ったわけじゃないわよ。
あんた最近無茶しすぎよ、超サイヤ人になる前に死んじゃうわ!」

「まぁ孫くんに先越されちゃって、焦る気持ちも判らなくもないけどさ・・・
そうね・・・あんたと孫くんの大きな違いは、戦うことを楽しんでいるかどうかってことよ。
強くなるために努力しているのは認めるけどね」
「オレはサイヤ人だ!戦うことに喜びを感じ、戦いだけがオレの全てだ!」
「ほんとかしら。
あんたは自分のプライドのために、勝つことにこだわっているように見えるわよ」
「当たりまえだ、それ以外に何がある」
「勝てなくなったら、あんたどうするつもり?」
ブルマは云ってからしまった!と思った。
ここまで云うつもりは全くなかった。
まさか自分の言葉でべジータのプライドが傷つくということはないだろうが、確実にべジータを怒らせた。
下手をすると殺されるかもしれない。
ブルマはべジータの様子を伺った、が、べジータは怒るどころか、ブルマを静かに見ているだけだった。
そして、しばらくの沈黙の後、べジータはプイッと研究室を出て行ってしまった。
べジータの予想外の反応に、ブルマはいささか拍子抜けした。
(変なの。一体なんだっていうのかしら。
サイヤ人の王子様の考えることって、ほんっと理解できないわねー)
一人研究室に残されたブルマは、早速メディカルマシーンの改良に取り掛かるべく、作業着に着替えた。

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べジータからのヒントを元に、メディカルマシーンの改良に取り掛かり、早2ヶ月が過ぎようとしていた。
マシーンの出来は我ながら素晴らしいと思う。
早くべジータに見てもらいたいのに、あれ以来べジータは顔を見せない。
きっとどこかの荒野で修行でもしているのだろう。
ブルマは何度探しに行ってみようかと思い、壊れたスカウターを修理して使用できるようにしたのだが、べジータらしき戦闘力の反応はなかった。
(べジータは、ちゃんと修行してるのかしら?)
(・・・あーあ、あいつがいないと退屈だわー。)
ブルマは大きなあくびをして、ベッドにゴロリと横たわった。

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