チェックメイト

第六章


西の都からそう遠くない、岩壁が切り立つ荒れ果てた土地で、
べジータは空を睨みつけるようにして立っていた。

風の音だけが、びゅうびゅうとべジータの耳をかすめていく。

べジータはこの二ヶ月の間で、自分の心を「無」で支配する技を覚えた。
最初の頃は、眼を閉じてみてもまぶたに浮かんでくるのは、カカロットのことばかりで、まったく上手くいかなかった。

しかしコツをつかむと、次第に自分の中からカカロットの姿が薄れ、そして消えていった。

べジータは目を閉じる。

全神経を自分の中の一点に集中させると、心の奥底から、何かが満ちてくるのを感じた。

それは・・・邪悪に蠢く静かな怒り。

じわじわと、そして、かつてないほどのパワーを秘めて、ベジータを満たしていくようだった。



べジータは静かに瞼を開けた。



ゴオオオオオオオーーー!!!!

べジータの全身から金色のオーラが勢いよく噴出す。
そして、蒼い稲妻がベジータの周りで激しくスパークした。
やがて、髪は金色に逆立ち、黒い瞳は深い翡翠色に変わった。

べジータは拳にぐっと力を入れ、さらに気を放出した。

あたりの岩壁は崩れ落ち、砕けた岩は轟音と共に宙に舞い上がる。
そして、かつてないほどの気が大地をふるわせた。



「これが超サイヤ人か・・・」

「ふ、ははははははは!!!!!!最高の気分だぜ!!!
やっとオレはサイヤ人の誇りを取り戻すことができたんだ!!!」

「見ていろよ!!カカロットーーーー!!!」

べジータは気を一気に爆発させ、あたりの風景を一瞬にして変えてしまった。

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「きゃ!なに?地震??」
ブルマはリビングでウーロンとお喋りを楽しんでいる最中だった。
「結構でかい地震だな。テレビつけてみろよ」
地震速報をみるために、ブルマはテレビのリモコンのスイッチを入れた。

しかし、テレビから流れてきたのは、先ほどの地震の速報ではなく、
西の都からそう遠くない場所で、ものすごい爆発があったらしいことを伝えるニュースだった。
「爆発だってよー。なんだろうな、一体」
ウーロンがオレンジジュースを飲みながら、テレビに見入る。

ブルマにはピーンとくるものがあった。

「ま、まさか・・・べジータじゃない?」
「べジータ?あいつならやりかねねーけどな」
「ウーロン、あたしちょっと出かけてくるわ!!母さんに夕食はいらないって言っておいて!!」
「あ、おい!ブルマ!!

・・・・・・・あーあ、あいつどうなっても知らねーぞ。相手はべジータかもしれないんだろ」
ウーロンはブツブツいいながら、またテレビの画面へと視線を戻した。


ブルマは自室から、改造したスカウターとジェットフライヤーのカプセルを持ち出た。
「えーっと」
ブルマはスカウターを左耳に装備し、スイッチを入れた。

ピピッ

この付近には反応がないようだ。今度は広域にセットする。
「あったわ!」
ニュースでやっていた場所よりも離れているが、大きな戦闘値を示している。
「多分、べジータだわ」
ここからだと最高速で飛ばしても3時間はかかる。
しかし、ブルマはためらわずにジェットフライヤーに乗り込んだ。

ピピッ、ピピッ

(今まで反応がなかったのに、どうして急に大きな気があらわれたのかしら?)
ブルマはいろいろ考えてみたが、よくわからない。
(あいつに限って、修行をしていなかったわけじゃないだろうし・・・)
「あ、このあたりね」
ブルマはジェットフライヤーから、下を見下ろしべジータの姿を探した。

「あら?あれは・・・」
ブルマは金色に光るべジータを見つけた。
「たしか、あの不思議な子と孫くんがなっていた、超サイヤ人じゃないかしら・・・」

べジータもブルマに気づいていたらしく、こちらを見たまま動かずにいた。
どうやらブルマが降りてくるのを待っているらしい。

「べジータ!!
あんた超サイヤ人になれたのね!!!!」
ブルマはジェットフライヤーから降り、べジータに駆け寄った。

「貴様、何しに来やがった・・・」
透き通った翡翠色の瞳が、ブルマに向けられる。
「何しにって、あんたのことずっと心配してたのよ!!!
お腹すかしてんじゃないかとかさ、どっかでのたれ死んでんじゃないかと思って!!!」
「フン。よけいなお世話だ。
だが・・・まぁいい。オレは今、最高の気分だからな」

「超サイヤ人になれたんなら、帰ってくるんでしょ?ウチに。
メディカルマシーンはあれから改良して、バッチリ使えるようになったわよ!!」
「ほう?貴様も少しは役に立つじゃないか」

べジータは超サイヤ人から通常モードに戻り、ブルマの肩を両手で掴んだ。
そしてブルマの顔に接近し、すばやくブルマの唇を吸った。

「!!!!」
ブルマは驚きのあまり、硬直したままべジータのされるがままになっていた。
が、べジータの熱を帯びたキスは、ブルマの脳をトロトロと溶かしはじめた。
(ああ・・・・) ブルマの表情が、次第に恍惚となっていく。
さらに密着するために、べジータの首に腕を巻きつけようとした時、
べジータはプイッと横を向き、ブルマの体から離れた。

「べジータ?」

「調子にのるな」
べジータはそう吐き捨て、さっさと飛んでいってしまった。

「な・・・な・・・な・・・・なんなのよーーーーー!!!!一体!!!! あんたからキスしたんじゃないのーーー!!」
ブルマは大声で叫んだ。
「もう許せないわ!!あたしに魅力がないなんて言わせないわよ!!!見てらっしゃい!!」
ブルマは拳を振り上げ、いつまでもぎゃーぎゃーとわめいていた。

一方、べジータは。

(オレとしたことが・・一体なんだっていうんだ?!)
べジータは、胸のあたりに熱く響く感情に戸惑いを覚えていた。

(くそッ。心臓のあたりがおかしい。これはなんだ?!
あの地球人の女の恍惚とした顔を見た途端、オレがどうにかなりそうだった。

何故だ?!

気や精神のコントロールが出来るオレが、あの女の前では出来なかった)

恋という感情を知らないべジータにも、うすうすと感じるものがあった。
(そうか・・・これがあの地球人どもが大好きな感情だな・・・
フン。その感情をこのオレがあの女に抱いたということか)

べジータは冷静に自分の感情を分析した。

(何の役にもたたん感情だ。あの女にはこれ以上関わるのは危険だな・・・)
べジータは小さく芽生えたその感情を、遠くへ押しやった。

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