続・未来から来た青年

オレが2度目に過去に来たとき、若い母さんの腕の中には小さなオレがいた。
(良かった。ちゃんと父さんとくっついたんだ。)

もちろん父親とはいえ、他の男に想い人を取られたことには変わりがなかった。
それに、あの時・・・父さんが若い母さんと小さなオレを見殺しにしようとした時、父親への遠慮は吹っ切れていた。
なぜ、母さんを守らない父さんに、あの人を譲らなければならないのか。
(もう、小さなオレは生まれている。何があっても歴史は変わらないさ。もう父さんと母さんは一緒にいる必要はない)そんなことも考えた。

セルとの戦いが終わり、父さんは、母さんやオレのことを大切に思っていることが分かった。
でも・・・ゲロに攻撃されジェットフライヤーが打ち落とされた時、オレが助けなければ、小さなオレと母さんは死んでいたかもしれないのという事実は変わらない。
そのことだけは、釈然としないでオレの心の中に引っかかっていた。

「あら、トランクス。もっとたくさん食べなさいよ。あんただってサイヤ人の血を引いているんだから、それじゃ足りないでしょ?遠慮しなくていいのよ」
若い母さんは、なにかとオレに良くしてくれた。
「はい。」
「あんたって、べジータの血を引いてる割に素直な子よねー」
若い母さんは腰に手を当て、父さんをチラっと見た。
父さんは聞いているのか、いないのか、大量の食物を胃の中に詰め込んでいる。
「そうそう、カプセルに食料とか研究資料とか、とにかく必要そうなものは詰め込んであるから、あっちのブルマに持っていってあげて」
「ありがとうございます。喜びますよ、母さん」

一緒に戦った仲間達との、楽しい最後の夕食が終わると、オレは明日のために身支度を整えていた。
若い母さんが用意してくれた部屋は、殺風景で何もなかったけど、とりあえず、熱いシャワーや暖かいベッドがあり、こちらの世界で生まれた、小さなトランクスを少し羨ましく思った。

母さんもいて、父さんもいて、悟飯さんもいる。そして、なによりも平和があった。
この世界では当たり前のことかもしれないが、オレはその当たり前の事を持っていない。

ふと、自分の運命を呪いたくなった。

これから未来へ帰り、人造人間を倒したとしても、その後何が残るんだろうか。
戦うものがなくなってしまったら、自分のこんな想い、迷いに耐えていけるのだろうか。
幸せになる自分など、想像もできない。
生まれてから一度も、たったの一度も幸せなど知らないで生きてきた。

「トランクス」
不意にオレを呼ぶ声がした。
父さんだ。

「父さん・・・」
「明日帰るのか」
「はい。あっちの母さんが待っていますので」
「そうか」
「・・・」
いくら、自分の父親であり、一緒に戦った仲間だとしても、この人と2人きりでいることは気まずい。

「人造人間を倒したら、それからどうするんだ?」
父さんは思いもがけない質問をしてきた。
さっきまでオレが考えていたことだ。

オレが答えに詰まっていると、父さんが話し始めた。
「オレはこの地球をぶっ壊しにやってきた」
「?」
父さんは、突然物騒なことを言い始め、オレをチラを見ると、どっかりとベッドに座り込み、オレも座るようにと目で合図をした。
少し長い話になるのかもしれない。
オレはテーブルに備え付けられた小さな椅子に腰掛けた。
「向こうのブルマはオレのことをお前に話したか?」
「あ、いえ。少しは聞いていますが」
「サイヤ人は戦闘民族だ。だから戦いが全てだ。お前にもサイヤ人の血が流れているから、その事は、うすうすでも感じていただろう」
「はい、父さんと悟空さんを見ていますから」
「オレは30年近く、戦いと破壊、他の星の侵略に明け暮れた。やっていたことは、人造人間とそう変わらん。ただし、サイヤ人の誇りを持って戦うことが大きな違いだがな。
オレは戦いのない世界など考えもしなかったし、ましてや、お前のようなガキができることなんて、これっぽっちも考えていなかったさ。カカロットのように、甘っちょろい感情などオレにはないからな。」
父さんは、なぜだか自分をあざ笑うかのように話している。
オレも父さんの真意が判らないまま、黙って聞いていた。
「オレは地球人のいう、幸せなど判らないし、判ろうとも思わない。どうせくだらん感情だ。だが、オレはここに残ることを選んだ。宇宙へいけば、サイヤ人の血を躍らせるような戦いはいくらでもあるが、あえて、オレはここにいて、くだらん地球人どもと暮らしている。」
「はあ」
「なぜだか解るか?」
「・・・わかりません」
「フン、教えてやろう。」
少しの間、父さんはポツリと言った。


「あの女だ」

「・・・は?」
オレは咄嗟に理解できなくて間抜けた返事をしていた。
「・・・・」
「・・・・あの、それは、母さんの為に地球に残っている・・・ということですか?」
「そう理解してもいい」
「はあ」
「オレは何があってもブルマを守る」
「・・・」
「だからお前もブルマを守れ。それ以上、余計なことは考えるな」

「父さん」
オレは強烈なパンチを食らったように、しばらく放心していた。

なんとも、あっけなくオレの迷いを解決してしまうのだろう、この人は・・・。
ほどんど一緒に過ごしたことのない父親にまで、自分の心の中を見透かされているなんて思いもしなかった。

「それから・・・」
「こっちのブルマには手を出すんじゃないぞ。お前のブルマに対する気持ちなど、とっくにお見通しだからな。」
「ええっ!!?」
「その時は・・・息子だろうが関係ない。オレは貴様を殺す!解っているな!」
「はい!」
オレは、心底震え上がり、そしてこの父を改めて見直した。
ホントにかなわない、この人には。

オレは父さんが部屋から去ったあとも、しばらくボーっとしていたが、ふと胸のポケットから若い頃の母さんの写真を取り出して、月あかりにかざした。
「オレの入り込む隙は、ないんですね。母さん。」
オレの心は、儚く、砕け散ったようだった。

翌朝、見送りにきてくれた皆に、軽く挨拶をするとタイムマシンに乗り込んだ。
父さんは、少し離れた木の側にいて、照れくさそうにVサインを送ってきた。
それは、元気でいろよ、か、頑張れよ、だか、母さんを巡ってのライバル争いに勝ったサインなのか、良くわからなかったが、その全てかもしれない。
ただ、あんな怖そうな父さんの思いもがけない一面を見たことがとても嬉しかった。
未来の世界の母さんへ、早く知らせてあげたい。

タイムマシンは高く高く、静かに上がっていく。
若い母さんが大きく手を振っているのが見えた。

「さようなら、オレの愛しい人・・・」

オレは、未来へと続く、赤く小さなスイッチを押した。



あとがき
親子バトルです(><)
べジータにとって、未来トランクスは息子というよりも得体の知れない敵(?)って感じです。
原作の、未来トランクスを認めようとしない頃のべジータが好きですー!

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