細くてすらりと伸びた指が、トランクスの髪をさらさらと流れるように梳いていく。
窓の外には爽やかな青い空が広がっている。
トランクスは愛おしい人に髪をなでられ、気持ちよさそうに目を閉じていた。

トランクスの背中にぴったりとくっついた、ブルマの柔らかな胸の感触も気持ちいい。
(オレは今、幸せです)
そしてその感触は、爽やかな青空とは裏腹に、トランクスの想像をいやがおうにもかき立てていく。

愛しい人と肌をあわせ、淫らな格好で悶える若いブルマ。
オレはその人を、まるで壊れやすいガラスを扱うように、丁寧に丁寧に愛でながら、
そして乱暴に壊していく。

セルゲームから

第一話 幻想


「トランクス〜。前髪を切るから目を開けてちょうだい」
ブルマの声で、トランクスは現実に戻された。

目の前には大きな鏡が置いてあり、トランクスとブルマ、そして不機嫌そうにディレクターズチェアに座るベジータが写っていた。
セルゲームまでの間、トランクスとベジータは精神の部屋で修行をすることになっていた。
これから出かけようという時に、ブルマがトランクスの伸びきった髪を切ると言い出したのだ。
トランクスは内心喜んだが、ベジータは不機嫌になった。
しかしブルマはベジータの機嫌などお構いなしに、ハサミや鏡の用意を始め、トランクスを椅子に座らせたのだった。

ブルマはトランクスの前髪を人差し指と中指で挟み、チョンチョンとハサミを入れていく。
その動きは、未来の世界でいつもブルマに髪を切って貰っていたトランクスにとっては、少々ぎこちなく思えた。

「あ、ちょっと短くしすぎちゃった!!」
ブルマはしまったというように、軽く手で口を押さえた。
その仕草は、未来の世界にいる母親のブルマには見られないものだった。
(かわいい・・・)
トランクスはブルマを愛おしそうに鏡ごしに見つめていたが、ものすごい形相でにらみつけているベジータに気づき、あわてて目をそらした。
「大丈夫ですよ、すぐ伸びますから」
トランクスは父親のべジータに、自分の心の中を見透かされたような気がして内心焦った。
しかしべジータは何も云わず、興味なさそうに腕を組んで窓の外に視線をやったので、
トランクスはホッしていた。

一時間ほどで、トランクスの長かった髪は切り落とされ、以前のような髪型に戻された。
若干短めだが、精神の部屋に入ってしまえばすぐに伸びてしまうだろう。
(これからあの父さんと、またあそこに入るのか)
トランクスはそのことを考えると気が重かった。

「トランクス!!グズグズするな!!」
べジータは立ちあがり、トランクスに戦闘服を投げてよこし、先にC.Cを飛び出していった。

「べジータったらあんたのこと、ちゃぁーんと待ってたのね」
ブルマはパチンとウインクをし、トランクスの着替えの手伝いを始めた。
「い、いえ、一人で大丈夫ですから!!!!!」
トランクスはあわてて飛びのいた。
「何よ、別に恥ずかしがることないでしょ、親子なんだから」
「で、でも・・・」
トランクスは首の付け根まで真っ赤になっている。
「わぁああああ!!ちょ、ちょっと待ってください!!!」
ブルマはトランクスの上着を巻まくりあげ、慣れた手つきでさっさと剥ぎ取ってしまった。
「す、すいません、母さん!!行ってきます!!」
トランクスは戦闘服をブルマから奪うと、中途半端な格好のままべジータの後を追って飛んでいってしまった。
「あ、トランクス!!」
「・・・無茶はしないでよーー!!べジータのこともよろしくね!!」
ブルマは大きく手を振った。
トランクスはくるりと振り返り、手を振り返す。

こんな慌しい見送りだったが、これから始まる戦いは、かつてないほどの規模になるだろう。

セルゲーム。

それは一見くだらない発想だが、確実に仲間達が殺されていく、地獄のゲーム。
超サイヤ人になれるべジータやトランクスさえも、互角に戦うことすらできない相手。
トランクスは先ほどとはうって変わった、厳しい表情になった。


「やっと来たか」
「はい、お待たせしました」
トランクスは先にいくべジータに追いついた。
上半身裸のまま、戦闘服を抱えた状態だったがべジータがそのことに触れることはなかった。

「おい」
べジータが視線だけをトランクスにやった。
「貴様・・・妙なことは考えないほうがいい」
「え?」
トランクスはべジータが何を言っているのか理解できずに、しばらく無言でいた。
(妙なこと?セルゲームで無理をするな・・・とか?
いや、まさかこの男に限ってありえない)
「フン。わからんのなら、もういい」
べジータは早々に話を切り上げた。
いつもの調子とは違うべジータにトランクスはハッとした。

「母さんのこと・・・ですね?」
トランクスは恐る恐る聞き返した。
べジータがそれ以上何も云わない所を見ると、どうやら正解だったようだ。

ビリビリとした気がべジータから発せられているのが気になっていたが、
べジータが喋らないので2人は無言のまま神様の神殿へと向かっていった。


続く


あとがき
トラだけにトラ刈り

次回は、親子バトル勃発です

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