セルゲームで、トランクスは命を落とした。
わずかな油断が、セルの一撃を喰らってしまったのだった。
孫悟空も自分の身を犠牲にして死んだ。
なんでもブルマに「自分がいると悪者を引き寄せる」と言われたことに納得して、
孫悟空は生き返ることを拒否した。
「トランクス!!!よかった!!!無事だったのね」
ブルマは自分より背の高いトランクスを力いっぱい抱きしめた。
「無事・・・まぁ、一度死にましたけどドラゴンボールで生き返らせてもらいました」
「そうなの?でも、帰ってきてくれて良かったわ。
あんたに何かあったら、あっちのあたしに申し訳ないからさ」
ブルマの何気ない一言は、トランクスに小さな傷をつけた。
(あなたは・・・どうなのですか)
もし、この言葉を言えば、きっとトランクスの望む答えが返ってきたに違いないが、
それは、なんとなくためらわれた。
「べジータは?一緒じゃないの?」
ブルマはトランクスと一緒にべジータがいないことに気づいた。
「父さんは、神様の神殿にも来ませんでしたから・・・」
「え?」
ブルマは表情を曇らせた。
「あ、でも、無事ですよ!!父さんはオレがセルに殺されたことに怒って、
なりふりかまわずセルに向かっていってくれたみたいなんです。
・・・ヤムチャさんがそう教えてくれました」
「べジータが?!・・・へぇー」
「じきに帰ってくると思います。
今は・・・悟空さんが亡くなったことで、なにか思うことがあるんじゃないでしょうか・・・」
「孫君が・・・死んだ?ドラゴンボールで生き返らせなかったの?!」
「ええ、悟空さんはあちらの世界で楽しくやりたいからと言って・・・
生き返るのを拒否したんです」
トランクスは、悟空がブルマに言われたことを意識して、
生き返ることをやめたということは伏せながら、一通りのいきさつを説明した。
「孫くん、もう会えないんだ・・・孫くん」
ブルマはトランクスの胸にすがり、わぁわぁと泣いた。
トランクスはブルマの震える肩をそっと抱き、
おずおずとその腕の中にブルマの華奢な身体を収めた。
そして、あやすように背中をさすったり、頭を撫でたりしていた。
「う、なんで、なんで生き返らなかったの?!孫くん・・・」
トランクスはブルマがこんなに泣いてくれるのなら、
自分は死んでしまっても良かったかなという思いがよぎる。
その時、
「カカロットはブルマの言ったことに納得し、あの世にいることを選んだ」
ベジータはリビングの入り口に立ち、抱き合う2人を睨むように見ていた。
気を消していたため、いつからそこにいたのかはわからないが、
おそらくトランクスが躊躇いがちにも、ブルマを抱きしめたところは見られていたに違いない。
ブルマがべジータの声に反応し、身を起こす。
「べジータ」
ブルマの身体が離れ、べジータの元へ行こうとしているのを感じたトランクスは、
咄嗟にブルマを抱く腕に力を入れた。
傍目からでは判らない微妙な動きだが、ブルマを拘束するのには十分だ。
「父さんっ!」
トランクスはべジータを睨み返した。
「ちょっと、べジータ。
孫くんがあたしの言ったことに納得したって・・・どういうこと?」
ブルマはトランクスの腕に抱かれながら、首だけをべジータに向けて云った。
「以前、貴様はカカロットに云ったらしいな・・・
カカロットが悪い奴らを引き寄せるんだとな」
「・・・確かに云ったけど、たったそれだけで生き返ることをやめたっていうの?!」
「カカロットにとって、貴様の影響力は、自分が思っている以上に重いということだ」
「そ、そんな・・・それじゃ、あたしが・・・?」
「父さんッ!!!あなたって人は!!!!」
トランクスはブルマをかばうように、腕に力を入れた。
「なんて無神経な人なんだ!!!」
ブルマ蒼い目を大きく見開いている。
いくらブルマといえどもショックは隠しきれない。
「・・・オレはあなたに、期待をしすぎていたようですね。
ヤムチャさんからオレが死んだときの話を聞いて・・・
やっと父親だと認めることができたのに!!」
「フン。甘ったれるな!サイヤ人に親子の情などあるか」
「そ、そんな・・・」
「ちょっと、べジータ!!トランクスはあんたの子供でしょ!
そんな言い方ってないじゃないの?」
ブルマがべジータを怒鳴りつけた。
4つの蒼い目がべジータに向けられる。
その視線は何故かべジータに疎外感を与えた。
「チッ。」
べジータは舌打ちをすると、くるりと向きを変えた。
「父さん!待ってください!」
トランクスはべジータに駆け寄り、肩を掴んで振りかえさせようとする。
しかしべジータはトランクスの腕を軽くはらい、壁まで吹き飛ばした。
「オレに気安く触るな!!!!」
「う・・・と、父さん・・・」
「トランクス、大丈夫?!」
トランクスの口から、ツツーッと赤い血が流れ出た。
トランクスはその血を拳でぬぐうと、キッとべジータを見上げた。
「あなたと同じ血が流れているのかと思うと・・・オレはやりきれない」
「フン。貴様は何もわかっちゃいないようだから教えてやるが・・・
ブルマがカカロットの事でショックを受けているとしたら、
そうさせたのは貴様の方だ、トランクス!」
「え?!・・・な、何を馬鹿なことを!!オレは母さんの事を第一に考えているだけだ!!
あなたのように無遠慮に、悟空さんのことを言ったりはしない!!」
「やはり、貴様はバカだな。本当にオレの血を引いているのか?!」
「何!?」
「カカロットは自分あの世に残ることを選んだ。
たとえ、ブルマが言ったことがきっかけになったとしても・・・だ」
「・・・?」
トランクスはべジータの様子を伺っている。
「あのヤローが自分で選んだことだ。ブルマには関係のないことだろうが」
「・・・」
「何故カカロットが云った事を、ブルマに云わなかった?
ブルマのせいで、カカロットが生き返るのをやめたと思っていたからだろう!
つまり・・・貴様はブルマが悪いと思っていたからこそ話せなかった・・・
違うか!!?」
「・・・!!!」
べジータの云うことは、トランクスの心の中を深くえぐりだした。
「何も判っていないのは、貴様の方だ!トランクス」
べジータはそういい捨てると、くるりときびすを返しリビングから消えた。
後に残された、ブルマとトランクスは沈黙のまま動けずにいた。
(オレが、母さんを傷つける?!オレが?)
消沈したトランクスの頬に、柔らかなものが触れた。
「小さいトランクスには、唇にキスをしてあげるんだけど・・・
大きいあんたにキスしちゃうとさ、べジータが怒るから・・・ここでガマンしてね」
ブルマは優しく微笑んだ。
「さ、着替えてきなさい。あんたのその伸びた髪を切ってあげるから」
ブルマの目は完全に母親のものだった。
「・・・はい」
トランクスは胸の痛みを感じながらも、ブルマの用意した服に袖を通した。
チョンチョンとハサミの音がする。
「うーん、バランスとるのが難しいわねぇ。
あんたの髪ってサラサラしてるから、ちょっと切りにくいわ」
「母親似ですから」
トランクスは鏡越しにブルマと視線を合わせた。
「きっとあなたよりも、オレの方が髪を切るのは上手いですよ。
未来の世界では、母さんや悟飯さんの髪も切っていたこともありましたから・・・。
でも未来の母さんの方が、オレよりももっと上手かった」
「そう・・・あんたがねぇ」
ブルマは、トランクスの肩に落ちた綺麗な色をした髪をくしで払った。
「はい、おしまい。この間よりは上手く出来たでしょ?
ま、この間といっても、あんたにとっては何年も前の話になっちゃうのか」
「ええ。でも・・・たしかに丁度いい長さになりましたね」
トランクスは鏡の中の自分を覗きこんだ。
セルゲームの前に髪を切ってもらった時よりも、トランクスの頬に残る幼さは消え、
すっかりと、少年から大人の男へと変貌していた。
トランクスは自分の顎を撫でた。
ブルマも無言でそのしぐさを見ている。
鏡の中で目があうと、トランクスはにこりと微笑みブルマに云った。
「あなたの髪も、切ってあげますよ」
トランクスの胸の奥に、べジータに云われたことが引っかかっていた。
ブルマがその話題に触れないないので、トランクスも口にすることができなかった。
トランクスはハサミを片手に持ったまま、じっと鏡の中のブルマを見る。
「どうしたのよ、トランクス?」
「あ、いえ・・・なんでもありません。
前髪とサイドを少し切りますね」
「はーい、よろしくね!!」
ブルマは髪が目に入らないように目を閉じた。
トランクスがブルマの前髪をすくった。
しかし、ハサミの音はなかなか聞こえてこない。
「・・・?」
ブルマがいぶかしげに思っていると、カシャーンと金属が床に落ちる音がした。
同時に、トランクスの両腕がブルマの肩を覆い、トランクスとブルマの頬が重なる。
「すみません、母さん。父さんの云ったとおりです・・・
オレはあなたを傷つけないようにしていたつもりでしたが、
逆にあなたを傷つけてしまっていた」
「なぁに?孫くんのこと?・・・それは別に気にしてないわ。
孫くんが死んじゃったことはすっごく悲しいけどさ。
ほら、あたし達ずーっと昔から一緒だったから・・・。
でも死んだら逢えるんでしょ?あの世でさ。
あたしも天国にいくと思うから、そしたらいつでも逢えるじゃない。
それよりも・・・一番ショックを受けているのはべジータだと思うの」
「父さんが?」
「べジータはさ、孫くんを倒すことが生きがいだったから・・・
あたしはべジータが心配だわ。
あいつこれから何を目標にして生きていくのかしら?」
「でも、父さんには母さんがいます」
「あたしじゃダメね」
「そんなことは・・・」
「あいつはそういう男じゃないわ」
「母さん・・・本当に、それでいいんですか?」
「良いも悪いも、それがべジータだからね」
トランクスはブルマを抱いていた腕を解いた。
「べジータさんは、父さんは幸せものですね。
あなたにそれほどまでに想われているんですから」
(はじめからブルマに想いを告げることなど、考えてはいなかったけど・・・
これでは母さんがあまりにも可哀想すぎる。
そして、このオレも!!)
トランクスは床のハサミを拾い上げ、何かを決意したように鏡の中の自分を見つめた。
続く
あとがき
この展開だと18禁に行きたくなるところですが・・・
今回はベジトラバトルなので、我慢しました。
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