その夜、一旦解散した戦士たちが、トランクスと孫悟空のお別れ会を兼ねてC.Cに集まってきた。
そして、賑やかにバーベキューをしながら、酒を飲み、孫悟空の思い出話に花を咲かせた。
ただ、その場にべジータはいなかった。
トランクスがべジータの気を探ると、どうやら近くにはいるようだ。
盛り上がる話の輪からトランクスはそっと抜け出し、べジータの元へと向かった。
(いた)
べジータは西の都からそう遠くない場所で、岩場の上で腕を組んで立っていた。
トランクスが、自分を探しにくることを知っていたようだ。
「何の用だ、トランクス」
べジータは地上に降り立つトランクスを視線だけで追った。
「オレは明日、未来へ帰ります」
「・・・そうか。今の貴様なら人造人間などたやすいものだろう」
「そうですね・・・。孫悟空さんと・・・あなたのおかげです」
「フン」
「あなたにお願いがあって来ました」
「なんだ」
「母さんを・・・もっと大切にしてください」
暗闇の中、トランクスとべジータの目が野生の動物のようにキラリと光る。
「そんなことか・・・貴様には関係ない」
「いいえ、最後だから言わせてもらいますが、母さんはあなたの事を誰よりも大切に思っているんです。
悟空さんがいなくなって一番ショックを受けているのは、父さんだって言ってました。
自分では悟空さんの代わりにはなれないとも・・・」
「あたりまえだ!」
「もし、あなたが今までのように母さんを扱うのなら・・・」
「?」
「オレが未来へつれて帰ります」
トランクスは光る目をべジータに向けた。サイヤ人は夜目が利く。
暗闇の中でもトランクスの表情がはっきりと読み取れた。
(こいつ、本気でいってやがる)
べジータは半ばあきれたが、自分の血を受け継ぐトランクスなら本気でやりかねないと思った。
「どうなんですか?父さん・・・いや、べジータさん」
「何を言い出すのかと思えば、くだらんことをベラベラと喋りやがって。
貴様、セルとの戦いでアタマがおかしくなったか?・・・いや、可笑しいのはもともとか」
べジータは喉の奥でくっと笑った。
「くだらないこと?」
トランクスはカッと頭に血が上ったように、ざわざわと髪を逆立てた。
「そうだ。
貴様がブルマの事をどう思っていようが勝手だがな、それをオレに押し付けるな!!!」
「あなたって人は・・・」
「オレはあの人を、自分の母親だとは思っていません。
オレが喉から手が出るほど欲しいと思う、愛しい人です。
あなたに遠慮をしていましたが、こんな状態ならきっと・・・
あの人も冷酷で自分勝手なあなたより、オレがいいに決まっています!!」
トランクスはすーっと宙に浮き上がり、べジータを見下ろした。
「べジータさん、オレとあなたのパワーは互角です。
もしオレを止めるなら・・・今のうちですよ」
「?・・・なんのことだ」
「いったでしょう?オレはあの人を心から欲していると」
云い終わるか、終わらないかのうちに、トランクスは気を爆発させ金色の髪を逆立てた。
そして、全力でC.Cへ飛び立った。
後からべジータが追いかけてくる事を期待して。
「クソッ」
トランクスが残した言葉の意味を理解したべジータは、トランクスの後を追った。
C.Cでは皆で囲むベーべキューパーティ(?)も終盤になり、各自の部屋に戻る者もチラホラと出てきていた。
ブルマは皆が部屋に戻るまではここに残るつもりで、
ヤムチャとビールを片手に、孫悟空の思い出話に花を咲かせていた。
「ヤムチャさん!母さんを借ります!!」
トランクスは超サイヤ人のまま、あっという間にブルマの腰を抱きあげ、その場を離れた。
「な?なに?トランクス?また悪い奴がきたの?」
ブルマは驚いて、金色に超化したトランクスを見た。
トランクスは人気のないところにブルマを降ろし、自分のジャケットをすばやく脱いだ。
「父さんが来ます。しばらく芝居に付き合ってください!」
「え?」
ブルマが問いただす間もなく、トランクスの身体が覆いかぶさってきた。
「父さんの本音を引き出します」
トランクスは小声でブルマの耳元に囁いた。
「え?ええ・・・」
ブルマは下からトランクスの顔を見上げながら、訳が判らないといった風におとなしくしていたが、
すぐに事情を察し、トランクスの首に腕を絡ませた。
「そ、そこまでしなくても・・・」
「いーの!せっかくだしさー」
ブルマはトランクスの唇にキスをした。
先ほどはべジータが怒るとかで、頬にしかキスをしなかったはずだが・・・。
トランクスは驚いて目を見開いたが、べジータの大きな気を背後に感じると、
半ばやけになってブルマの口を吸った。
べジータの痛いくらいの視線を、ビンビンと背中に感じる。
(さぁ、父さん。オレはあなたの大切な人と、こんな事をしているのですよ)
トランクスはブルマのキスを受けながらも、全神経を背後に集中していた。
振り返らなくてもわかる。べジータの気が黒く、刺々しく変わっていくことが。
しかし、べジータは動く気配がない。
(何故だ?!)
トランクスの読みが外れたのだろうか。
「オレはあなたを愛しています」
トランクスはとても芝居とは思えないような、熱を帯びた声を出した。
トランクスがブルマに目で合図をする。
「だ、だめよ、トランクス。べジータに見られたらどうするの?」
ブルマもトランクスに合わせていくうちに、だんだんと楽しくなってきていた。
それに、よく見ると未来からきたトランクスはいい男だった。
「あの男はあなたのことを、何とも思ってはいない。でも、オレならあなただけを大切にします・・・」
トランクスはブルマの両足の間に、自分の体を割り込ませ、ブルマの身体を押し倒す形になった。
「あ、ダメ、トランクス!!やめてよ!!」
「あの人は来ませんよ」
トランクスは気を尖らせ、べジータが攻撃してきたときに備え、後方に飛べるような体勢をとった。
そして、その体勢のまま、ブルマに襲い掛かるふりをした。
「イヤー!!やめてっ!助けて!べジーターーー!!!!」
ブルマは叫んだ。
青い気弾がトランクスに向けて放たれる。
トランクスはニヤっと笑みを浮かべ、その気を片手で払った。
全力で攻撃してくると思っていたが、べジータは相当手加減をしているようだ。
トランクスはブルマに、もう少し芝居を続けろと合図する。
「父さん・・・あなたはこの人を何とも思っちゃいないんでしょう?
何故邪魔をするんです?」
「フン。そいつが嫌がっていたからだ」
「嫌がってなどいませんよ」
トランクスはチラリとべジータに視線をやると、
ブルマを羽交い絞めにし、首筋に唇を押し付けた。
「あぁっ!!べジータ、助けて!」
ブルマは美しい眉をキュッとひそめて、べジータの名前を呼んだ。
「くっ」
べジータは一瞬のうちに超サイヤ人になり、
トランクスを蹴り飛ばし、ブルマをトランクスの腕から取り上げた。
「貴様がいくらオレのガキだろうが、ゆるさんぞ!!!ぶっ殺してやる!!!」
べジータは怒りを爆発させた。
「こいつはオレのものだ!貴様ごときに渡してたまるか!!」
「べジータぁ・・・」
ブルマが嬉しそうにべジータにしがみついた。
何故かトランクスもかすかに笑顔を見せている。
(こいつら・・・)
べジータは自分がはめられたことを悟った。
「チッ。くだらんマネをしやがって」
べジータは頬を朱に染めた。
「なんだ、父さん。ちゃんと母さんのこと好きなんじゃないですか」
「・・・」
「それじゃ、オレの出る幕はありませんね・・・残念ですが」
「トランクス、あんたっていい子ね!!」
ブルマはトランクスの頬を両手で挟み、チュっとキスを送った。
「母さん・・・さっきのは芝居じゃありませんよ。
少なくともオレはあなたを欲しいと思っているんですから」
トランクスはドサクサにまぎれて、本音を言った。
「父さん。そんな訳ですから、油断しないでくださいね。オレはあなたのライバルですよ」
「チッ」
べジータは面白くなさそうに舌打ちをし、トランクスから視線をそらした。
「じゃ、邪魔者は去ります」
トランクスはひらひらと手のひらをあげて、皆がいる方向へと消えていった。
暗闇の中、べジータとブルマだけが残された。
「おい」
「なに?」
「貴様・・・さっきトランクスに抱かれた時の声、妙に下品だったぞ・・・」
「え?」
「貴様・・・芝居じゃなかっただろう」
「は、はは。や、やーね!!そんなことないわよーー!!!」
ブルマは顔を引きつらせて笑い、べジータの首に手を回して抱きついた。
べジータもブルマの腰を抱き、無言で引き寄せた。
「よお、トランクス。さっきのはなんだったんだ?ブルマはどうしたんだ
?」
ヤムチャが一人歩いてくるトランクスに気づき、自分のいるテーブルに呼んだ。
「母さんは父さんと、今頃・・・」
トランクスは複雑そうな笑顔を見せた。
「べジータが?戻ってきていたのか?」
「ええ、さきほど」
「おい、お前どうしたんだ?なんか暗いぞ」
ヤムチャはトランクスの背中をバンバンと叩いた。
「ヤムチャさん・・・母さんは罪な人ですよね」
「は?・・・まぁ、そうだな。オレもあいつとはいろいろあったからなぁ!
・・・いろいろとな・・・」
ヤムチャは自分とブルマの事を言っているのかと思い、ニンマリと笑っていたが、
トランクスのため息に気づき、ピンとくるものがあった。
「なぁ、違ってたらすまんが・・・。まさか、お前・・・ブルマのこと、を?」
トランクスはチラリと視線をヤムチャに向け、小さく頷いた。
「は、はははは!!!そ、そうか、お前も・・・。はははは」
ヤムチャは乾いた笑いを誤魔化すように、ビールをグイッっと飲み干した。
「な、なにか可笑しいですか?」
「いや、・・・別に。恋はいいなぁ。お前もブルマの他にいい女を見つけろよ」
「あの人以上の女性なんて・・・いるわけないじゃないですか」
「そうか・・・。お前も大変なんだな。
お前がブルマの子供じゃなければ、べジータとも互角に張り合えただろうになぁ。
ま、今夜は飲もうぜ!!ブルマに振られた男同士な!!」
ヤムチャはトランクスのために、冷えた缶ビールを空けてやった。
2人の男の間で、奇妙な友情が生まれるのも時間の問題だろう。
空が紫色のグラデーションを描きだす頃・・・
カラになった缶ビールがピラミッドのように詰まれ、
その側には2人の男が突っ伏したように居眠りをしていた。
C.Cが夜明けを迎えのも近い。
終
あとがき
お、ヤムチャとトラでBARカカロットに行かせよう。
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