セルゲームから

第三話 夜明け


その夜、一旦解散した戦士たちが、トランクスと孫悟空のお別れ会を兼ねてC.Cに集まってきた。
そして、賑やかにバーベキューをしながら、酒を飲み、孫悟空の思い出話に花を咲かせた。

ただ、その場にべジータはいなかった。

トランクスがべジータの気を探ると、どうやら近くにはいるようだ。
盛り上がる話の輪からトランクスはそっと抜け出し、べジータの元へと向かった。


(いた)
べジータは西の都からそう遠くない場所で、岩場の上で腕を組んで立っていた。
トランクスが、自分を探しにくることを知っていたようだ。


「何の用だ、トランクス」
べジータは地上に降り立つトランクスを視線だけで追った。
「オレは明日、未来へ帰ります」
「・・・そうか。今の貴様なら人造人間などたやすいものだろう」
「そうですね・・・。孫悟空さんと・・・あなたのおかげです」
「フン」
「あなたにお願いがあって来ました」
「なんだ」
「母さんを・・・もっと大切にしてください」
暗闇の中、トランクスとべジータの目が野生の動物のようにキラリと光る。
「そんなことか・・・貴様には関係ない」
「いいえ、最後だから言わせてもらいますが、母さんはあなたの事を誰よりも大切に思っているんです。
悟空さんがいなくなって一番ショックを受けているのは、父さんだって言ってました。
自分では悟空さんの代わりにはなれないとも・・・」
「あたりまえだ!」
「もし、あなたが今までのように母さんを扱うのなら・・・」
「?」
「オレが未来へつれて帰ります」

トランクスは光る目をべジータに向けた。サイヤ人は夜目が利く。
暗闇の中でもトランクスの表情がはっきりと読み取れた。
(こいつ、本気でいってやがる)
べジータは半ばあきれたが、自分の血を受け継ぐトランクスなら本気でやりかねないと思った。
「どうなんですか?父さん・・・いや、べジータさん」
「何を言い出すのかと思えば、くだらんことをベラベラと喋りやがって。
貴様、セルとの戦いでアタマがおかしくなったか?・・・いや、可笑しいのはもともとか」
べジータは喉の奥でくっと笑った。
「くだらないこと?」
トランクスはカッと頭に血が上ったように、ざわざわと髪を逆立てた。
「そうだ。
貴様がブルマの事をどう思っていようが勝手だがな、それをオレに押し付けるな!!!」

「あなたって人は・・・」
「オレはあの人を、自分の母親だとは思っていません。
オレが喉から手が出るほど欲しいと思う、愛しい人です。
あなたに遠慮をしていましたが、こんな状態ならきっと・・・
あの人も冷酷で自分勝手なあなたより、オレがいいに決まっています!!」

トランクスはすーっと宙に浮き上がり、べジータを見下ろした。
「べジータさん、オレとあなたのパワーは互角です。
もしオレを止めるなら・・・今のうちですよ」

「?・・・なんのことだ」
「いったでしょう?オレはあの人を心から欲していると」
云い終わるか、終わらないかのうちに、トランクスは気を爆発させ金色の髪を逆立てた。
そして、全力でC.Cへ飛び立った。
後からべジータが追いかけてくる事を期待して。


「クソッ」
トランクスが残した言葉の意味を理解したべジータは、トランクスの後を追った。



C.Cでは皆で囲むベーべキューパーティ(?)も終盤になり、各自の部屋に戻る者もチラホラと出てきていた。
ブルマは皆が部屋に戻るまではここに残るつもりで、
ヤムチャとビールを片手に、孫悟空の思い出話に花を咲かせていた。


「ヤムチャさん!母さんを借ります!!」
トランクスは超サイヤ人のまま、あっという間にブルマの腰を抱きあげ、その場を離れた。
「な?なに?トランクス?また悪い奴がきたの?」
ブルマは驚いて、金色に超化したトランクスを見た。
トランクスは人気のないところにブルマを降ろし、自分のジャケットをすばやく脱いだ。
「父さんが来ます。しばらく芝居に付き合ってください!」
「え?」

ブルマが問いただす間もなく、トランクスの身体が覆いかぶさってきた。
「父さんの本音を引き出します」
トランクスは小声でブルマの耳元に囁いた。
「え?ええ・・・」
ブルマは下からトランクスの顔を見上げながら、訳が判らないといった風におとなしくしていたが、
すぐに事情を察し、トランクスの首に腕を絡ませた。
「そ、そこまでしなくても・・・」
「いーの!せっかくだしさー」
ブルマはトランクスの唇にキスをした。
先ほどはべジータが怒るとかで、頬にしかキスをしなかったはずだが・・・。

トランクスは驚いて目を見開いたが、べジータの大きな気を背後に感じると、
半ばやけになってブルマの口を吸った。
べジータの痛いくらいの視線を、ビンビンと背中に感じる。
(さぁ、父さん。オレはあなたの大切な人と、こんな事をしているのですよ)
トランクスはブルマのキスを受けながらも、全神経を背後に集中していた。
振り返らなくてもわかる。べジータの気が黒く、刺々しく変わっていくことが。
しかし、べジータは動く気配がない。
(何故だ?!)
トランクスの読みが外れたのだろうか。


「オレはあなたを愛しています」
トランクスはとても芝居とは思えないような、熱を帯びた声を出した。
トランクスがブルマに目で合図をする。
「だ、だめよ、トランクス。べジータに見られたらどうするの?」
ブルマもトランクスに合わせていくうちに、だんだんと楽しくなってきていた。
それに、よく見ると未来からきたトランクスはいい男だった。
「あの男はあなたのことを、何とも思ってはいない。でも、オレならあなただけを大切にします・・・」
トランクスはブルマの両足の間に、自分の体を割り込ませ、ブルマの身体を押し倒す形になった。
「あ、ダメ、トランクス!!やめてよ!!」

「あの人は来ませんよ」
トランクスは気を尖らせ、べジータが攻撃してきたときに備え、後方に飛べるような体勢をとった。
そして、その体勢のまま、ブルマに襲い掛かるふりをした。

「イヤー!!やめてっ!助けて!べジーターーー!!!!」
ブルマは叫んだ。

青い気弾がトランクスに向けて放たれる。
トランクスはニヤっと笑みを浮かべ、その気を片手で払った。
全力で攻撃してくると思っていたが、べジータは相当手加減をしているようだ。
トランクスはブルマに、もう少し芝居を続けろと合図する。
「父さん・・・あなたはこの人を何とも思っちゃいないんでしょう?
何故邪魔をするんです?」

「フン。そいつが嫌がっていたからだ」
「嫌がってなどいませんよ」
トランクスはチラリとべジータに視線をやると、
ブルマを羽交い絞めにし、首筋に唇を押し付けた。
「あぁっ!!べジータ、助けて!」
ブルマは美しい眉をキュッとひそめて、べジータの名前を呼んだ。

「くっ」
べジータは一瞬のうちに超サイヤ人になり、
トランクスを蹴り飛ばし、ブルマをトランクスの腕から取り上げた。
「貴様がいくらオレのガキだろうが、ゆるさんぞ!!!ぶっ殺してやる!!!」
べジータは怒りを爆発させた。
「こいつはオレのものだ!貴様ごときに渡してたまるか!!」


「べジータぁ・・・」
ブルマが嬉しそうにべジータにしがみついた。
何故かトランクスもかすかに笑顔を見せている。

(こいつら・・・)
べジータは自分がはめられたことを悟った。
「チッ。くだらんマネをしやがって」
べジータは頬を朱に染めた。

「なんだ、父さん。ちゃんと母さんのこと好きなんじゃないですか」
「・・・」
「それじゃ、オレの出る幕はありませんね・・・残念ですが」
「トランクス、あんたっていい子ね!!」
ブルマはトランクスの頬を両手で挟み、チュっとキスを送った。
「母さん・・・さっきのは芝居じゃありませんよ。
少なくともオレはあなたを欲しいと思っているんですから」
トランクスはドサクサにまぎれて、本音を言った。
「父さん。そんな訳ですから、油断しないでくださいね。オレはあなたのライバルですよ」
「チッ」
べジータは面白くなさそうに舌打ちをし、トランクスから視線をそらした。
「じゃ、邪魔者は去ります」
トランクスはひらひらと手のひらをあげて、皆がいる方向へと消えていった。


暗闇の中、べジータとブルマだけが残された。
「おい」
「なに?」
「貴様・・・さっきトランクスに抱かれた時の声、妙に下品だったぞ・・・」
「え?」
「貴様・・・芝居じゃなかっただろう」
「は、はは。や、やーね!!そんなことないわよーー!!!」
ブルマは顔を引きつらせて笑い、べジータの首に手を回して抱きついた。
べジータもブルマの腰を抱き、無言で引き寄せた。



「よお、トランクス。さっきのはなんだったんだ?ブルマはどうしたんだ ?」
ヤムチャが一人歩いてくるトランクスに気づき、自分のいるテーブルに呼んだ。
「母さんは父さんと、今頃・・・」
トランクスは複雑そうな笑顔を見せた。
「べジータが?戻ってきていたのか?」
「ええ、さきほど」
「おい、お前どうしたんだ?なんか暗いぞ」
ヤムチャはトランクスの背中をバンバンと叩いた。
「ヤムチャさん・・・母さんは罪な人ですよね」
「は?・・・まぁ、そうだな。オレもあいつとはいろいろあったからなぁ!
・・・いろいろとな・・・」
ヤムチャは自分とブルマの事を言っているのかと思い、ニンマリと笑っていたが、
トランクスのため息に気づき、ピンとくるものがあった。

「なぁ、違ってたらすまんが・・・。まさか、お前・・・ブルマのこと、を?」
トランクスはチラリと視線をヤムチャに向け、小さく頷いた。

「は、はははは!!!そ、そうか、お前も・・・。はははは」
ヤムチャは乾いた笑いを誤魔化すように、ビールをグイッっと飲み干した。
「な、なにか可笑しいですか?」
「いや、・・・別に。恋はいいなぁ。お前もブルマの他にいい女を見つけろよ」
「あの人以上の女性なんて・・・いるわけないじゃないですか」
「そうか・・・。お前も大変なんだな。
お前がブルマの子供じゃなければ、べジータとも互角に張り合えただろうになぁ。
ま、今夜は飲もうぜ!!ブルマに振られた男同士な!!」

ヤムチャはトランクスのために、冷えた缶ビールを空けてやった。
2人の男の間で、奇妙な友情が生まれるのも時間の問題だろう。


空が紫色のグラデーションを描きだす頃・・・


カラになった缶ビールがピラミッドのように詰まれ、
その側には2人の男が突っ伏したように居眠りをしていた。
C.Cが夜明けを迎えのも近い。





あとがき
お、ヤムチャとトラでBARカカロットに行かせよう。

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