Hope

人造人間が破壊しつくしたこの絶望しかない世界で、わずかに生き残った人々は、たった一筋の希望の光を見ていた。

それは、ほんとに小さな光であったが、常に未来を照らし続ける強い光。

ブルマは孫悟飯を人造人間との戦いで失ってから、C.Cのスタッフとともにレジスタンスを作っていた。
そのレジスタンスは、各地域まで広がっていき、今では12つものグループを形成していた。
今は、C.C以外の科学者や一般の人々もいる。
人造人間から身を守るシェルターや通信機を造ったり、食料となる穀物を育てていたりと様々だが、とにかく、生き抜くために地球人全員が力をあわせていた。

その中で、ブルマは2つのことに精力的に取り組んでいた。
一つ目は、タイムマシンの開発。
二つ目は、トランクスの身を守るためのメディカルマシーンの開発。

科学者達もその目標に向かって、ブルマを中心に日々研究を続けていた。
「ブルマ博士、トランクス君の体力データを採っておきたいのですが」
「わかったわ。午後からこちらへ来るように言っておくわ」
「よろしくお願いします」

タイムマシンはほぼ完成し、エネルギーチャージの完了を待つばかりだった。
過去から戻ってきたトランクスが、すぐ人造人間と戦えるよう、今はメディカルマシーンの開発に取り掛かっていた。
息子が命を落とすほどの怪我をしても、それをすぐ治してまた戦場へと戻すことができる、考えようによっては残酷なマシンの開発だった。
「あたしは地球を救えても、自分の息子を救うことが出来ないんだわ」
皮肉なことだと思ったが、べジータにしても地球を滅ぼすつもりで地球に来たのに、結果、地球を救う戦士の一人として命を落としている。
彼の残した一粒種は、最後の戦士となりべジータと同じ道を辿ろうとしている。

でも、トランクスをみすみす死なせるわけにはいかない。
トランクスが生きていくためには、自分の天才的は頭脳は絶対不可欠と自負している。

最近のトランクスは頻繁にあるものを眺めているのを、ブルマは知っていた。
トランクスはブルマのわからないところで見ていたつもりだったが、勘のよいブルマには全てお見通しなようだった。
「あの子、あたしの若い頃の写真なんてじっと見ちゃって・・・かわいいけど母親としてちょっと心配よね」

トランクスは夕食の後、といっても毎日食事があるわけでもなく、今日は特別に食料が手に入ったからなのだが、ともかく、壊れたC.Cの屋根に上り片膝を抱えて座って月を見上げていた。
「ブルマさん・・・」
「オレは時空を超えてあなたに逢いに行きます」
トランクスはため息まじりに呟いた。
人造人間がタイムマシンのエネルギーチャージの完了までおとなしくしてれば良いが、もしそこで自分が命を落とすことがあれば、この切ない思いも未来をつなぐためのタイムマシンも、無駄となってしまう。
とはいっても、逃げる場所も逃げる気もないので考えるだけ無駄なことなのだが。

「あなたはどんな女性なんだろう」
まだ見ぬ自分の若いころの母親を思い描く。
写真の中のブルマは優しい笑顔でトランクスを見つめている。
いくら、秩序も常識もないこの異常な世界でも、自分の母親に恋慕するなんておかしいと自分でもわかっている。
ただ救いなのは、過去のブルマも自分の母親に違いないのだが、自分の母親とは別の人格だということ。
「早くあなたに逢いたい」
トランクスは古ぼけた写真を自分の胸のポケットに大事そうにしまいこんだ。

「あら、トランクスまだ起きていたの」
「はい。なんだか眠れなくて」
「そうね、タイムマシンのエネルギーチャージがそろそろ完了するからね。」
「ええ」
「あんたさ、ほんとは孫くんだけじゃなく、他の人にも逢いたいんでしょ」
「え?!」
「あんたの事、あたしが何も知らないとでも思ってるの?」
「はは、さすが母さんですね。あなたに隠し事はできないようです」
「当ったり前よ。でもね、あんたには悪いと思うけど・・・」
「大丈夫ですよ、母さん。心配しないでください。オレが生まれてこないようなことになったら、オレも困りますから」
トランクスは少し笑って、うつむいた。
ブルマは、トランクスが過去に戻った時、若い頃のブルマにこっそり逢いにいくだろうと思っていた。
もしそれで過去が変わろうとも、別にいいか、とも考えている。
無責任なようだが、平和とか楽しい事を知らずに育ち、戦いに明け暮れている息子を思うと、小さな恋心くらいなんとかしてやりたいのが母親だ。
ましてや相手は若い頃の自分だ。
自分の息子だと知らなければ、ブルマがこの強くて素敵なトランクスを気に入ることはわかっていた。

「あんたが過去へ行っている間、この世界のことはあたしに任せなさい」
ブルマは力強く言った。
「頼もしいですね、母さん。オレはそんなあなたの息子に生まれたことを、誇りに思っています」
「あら、そんな恥ずかしいことがよく言えるわねー。べジータもそうだったけどさ」
「母さんは父さんに逢いに行かないのですか?」
「いいのよ。あっちのべジータは今のあたしを知らないもの」
今のブルマは、平和だった時のブルマとは違う。
長い年月の戦いの日々は、人を変える。
べジータの記憶は数十年前に途切れたままだ。
今のブルマの壮絶な生き方を知らない。
そんなべジータに逢ったとしても、なにを語りあえば良いのか。
そう思うと、少し寂しく、過去の自分に軽い嫉妬を覚えた。
「とにかく、あんたはチャージが終わるまで戦いにでちゃダメよ」
「・・・」
「約束してよ。・・・って言ってもあんたが素直に言うこと聞くわけないわよね。」
「すみません」
「じゃ、死なないこと。それだけは守ってちょうだい」
「はい」
「うん、よろしい。じゃ、あたし寝るわね。あんたも早く寝なさい」
ブルマはトランクスの頭を撫でると寝室に戻っていった。

「母さんは、なんでもお見通しなんだ」
トランクスは、過去のブルマへの気持ちを知りつつも、言葉に出して言わない母親に感謝した。

そして、

トランクスはタイムマシンに乗り込んだ。
「行ってきます。母さん」
「ええ!気をつけてね、トランクス。孫くんによろしくね」
「はい。必ず薬を渡して戻ってきますから、母さんも無事でいてください」
トランクスはタイムマシンのシートから母親を見下ろした。
「大丈夫よ。あたし、運だけは宇宙最強なのよ」
「ははっ。その通りですね。余計なことを言いました」
「行ってらっしゃい」

タイムマシンは高く空へ上がると、一瞬の光とともに消えた。
「あんたの恋も、ちょっとくらいかなうといいわね・・・」
ブルマはトランクスの乗ったタイムマシンが消えた後の、灰色の空を眺めてつぶやいた。




あとがき
未来編、暗くて好きなんですよね。(T2のファンだったこともあるけど)
未来トランクスにはまっちゃって、まだまだ書き足りないです。
懲りずにしばらくお付き合いくださいね。

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