蒼い狂気 2

トランクスはここのところ、中の都へコンピューターシステムの復旧のために通っていた。
本来ならブルマが行くべきところだったが、西の都のシステムが不安定になってしまったため、トランクスが中の都を受け持つことになった。
とはいえ、戦い専門のトランクスの知識レベルでは解らない事が多く、そのたびにブルマの指示をもらっていたので、復旧には時間がかかっていた。

トランクスは仕事(?)を終え、西の都に戻る途中だった。C.Cの方角からものすごいエネルギーを感じた。
「このエネルギーは・・・タイムマシン?!」
タイムマシンからは邪悪な気は感じられない。ということは過去の誰かがこちらの世界に来たということだ。
「誰だ?父さん、悟飯さんでもない・・・」
トランクスは気の正体を捉えることができなかったが、なんとなく予感がした。
(ブルマさん)
トランクスは久しぶりに金色の気を解放すると、C.Cへ向かった。

「ただいま、母さん!」
「おかえり、トランクス。ブルマが来てるわよ」
トランクスの視線は既に、破れたソファに座っている若い母親を捕らえていた。
「はーい。トランクス!久しぶりー。」
ブルマはトランクスに駆け寄ると、さらにたくましく成長した自分の息子を眩しそうに見上げた。
「来てくれたんですね。嬉しいです。あなたとは二度と逢えないと思っていたから・・・」
「二度と?またタイムマシンでくればいいじゃないの。べジータもあんたのこと気にしてたわよ」
「それが・・・」
トランクスは少し言いにくそうに、うつむいた。
「タイムマシンはオレが壊したんです」
「あら、そうなの。じゃ、また修理すればいいじゃない」
ブルマは不思議そうな目をトランクスに向けて言った。
「そういう意味ではなくて・・・」
トランクスの言葉を未来のブルマが引き継いだ。
「タイムマシンと設計図は、ひとつ残らず消滅させたのよ。もう、タイムマシンは必要ないし、これからは孫くんやべジータに頼っていてはダメなの。あたし達が何とかしなければいけないのよ。タイムマシンがあるとどうしても甘えちゃうでしょ。」
「そんな!いいじゃないの!甘えてよ、ブルマ。あたしにもべジータにも!」
「それだけじゃないのよ。タイムマシンで移動する時に、ものすごいエネルギーが発生するのよ。それこそ地球なんかが吹き飛ぶくらいのね。それを無理やり抑えて時空を超えるから、そう何度も行き来すると時空のひずみができて、どうなるか解らないわ。」
「この世界では、母さんがタイムマシンを造ったことは皆知っていることなんです。また、セルみたいな奴に悪用されるとも限らない。それに、もっと世界が平和になった時、母さんの造ったタイムマシンを研究したいと言い出すはずです。そんなことになったら・・・」
「だからオレが、タイムマシンを消滅させた・・・」
そういいながら、トランクスの目は真剣になっていた。
「そうだったの。ごめんなさいね、ブルマ、トランクス。あたしは来ない方が良かったのかしら」
「そ、そんなことないです!来てくれて嬉しいです。矛盾していることだけど、オレはあなたに逢いたかったんですから!」
トランクスは頬を赤く染め、ムキになって言った。
「そうよ、ブルマ。さっきも言ったけど、あたしはあんたがこっちの世界に来ると思っていたもの。」
未来のブルマも笑って言った。
「さ、トランクス。着替えてきたら食事にしましょ。ブルマがたくさん差し入れてくれたのよ」
「はい!すぐ戻ります」
トランクスは上着を脱ぎながら、急いで自分の部屋に戻っていった。
「ふふふっ。あんなに楽しそうなあの子を見たのはいつ以来かしら。人造人間を倒してから、ちょっと様子がおかしくて心配だったの。ほら、あの子も半分はサイヤ人だから、戦いがなくなって自分の場所がわからなくなってるんじゃないかと思って。」
「・・・べジータもそうだったわよね」
「そうね。でもべジータにはあたし達がいたわ。でもあの子には・・・だから、あんたが救ってあげて。トランクスを。あの子ね、あんたの写真肌身離さず身につけてるのよ。笑っちゃうでしょ。」
「マザコンなの?!」
「さあねー。トランクスはあんたのこと、自分の母さんだとは思ってないみたいよ。」
未来のブルマはいたずらっぽく笑うと、冷蔵庫から缶ビールを取り出しプルタブを開けた。
「あー、美味しー!缶ビールなんて何十年ぶりかしら。ありがとね、ブルマ♪」

3人はブルマが持ってきたご馳走やらアルコールを前に盛り上がった。つもる話もあり、気がつくと真夜中をとうに過ぎていた。
「そろそろ寝ましょうか。明日からはトランクスと一緒に中の都に行ってちょうだい。トランクス、いいわね」
「はい、助かります。オレだけだと解らないことが多すぎて・・・」


トランクスはなかなか寝付けなかった。
もう逢えないと思っていたブルマが同じ空間にいると思うと胸が躍った。
すっかりアルコールも抜けきり、頭も冴え冴えとしていた。
トランクスは眠ることをあきらめ、ベッドから降りクローゼットを開けると、いつものジャケットの胸ポケットから一枚の破れた写真を取り出した。
写真の中には、今の自分よりもはるかに年下だった頃のブルマが写っている。
破れた方には誰か写っていたようだ。筋肉のたくましい男の腕の一部が見える。

トランクスがまだ少年だった頃、人造人間によって壊された、C.Cのブルマの部屋でこの写真を見つけた。
トランクスは衝撃を受けた。
こんなふうに幸せそうに笑った母親の顔を見たことがなかったからだ。
まだ平和だった頃の母親の笑顔。
となりにいるのは父さんだろうか?それにしては母さんが随分若い。もしかしてヤムチャさんかもしれない。

トランクスはいつのまにか、若い母親の隣にいる自分を想像することが多くなっていた。
それがトランクスに許された自分だけの時間であり、楽しみだった。

東の空が白々としてきた。トランクスの部屋に朝の光が差し込んでくる。
結局、一睡もできずにいた。
今日も忙しい。寝不足でぼんやりした頭をスッキリさせようと、シャワーを浴びることにした。

西の都の下水道は、早い時期に復旧していた。
ブルマが好きな時にシャワーを浴びられないのは嫌だといって、真っ先に取り掛かった仕事だったからだ。
この時ばかりはトランクスは散々、肉体労働をさせられた。

そんなことを思い出しながら、キュッと水道をひねった。
少し濁った水が蛇口からあふれ出る。
トランクスは顔を上げ目を閉じた。
冷たい水が頬や瞼を心地よく打ちつけ、筋肉で引き締まった体を伝い落ちていく。
両手で髪をかきあげ、ぶるっと首をふると、勢いづいた水しぶきがパッと跳ね、洗面台の鏡に飛んだ。
タオルで簡単に水分をふき取ると、トランクスは洗面台に両手をつき、鏡を覗き込んだ。
鏡に映った、蒼い眼の自分がこちらを見ている。母親譲りの珍しい色だ。
「ブルマさんへの想いは断ち切ったはずじゃなかったのか?」
鏡の中の自分は何も答えず、同じように鋭い目を向けている。

あとがき
狂気じみてきました。トランクスさん。



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