紺碧の残像

第四話



「なぁ、ブルマ。なんで先に帰っちゃうんだよ」
ヤムチャは孫悟空の結婚パーティーから戻るなり、ブルマの部屋へあがりこんだ。
「ん?電気もつけないでどうしたんだ・・・?」
ブルマは自分の部屋の窓際に、明かりも付けず、もたれかかるように腰をかけていた。
じっと窓の外を見て、ヤムチャが来たことに気づいていないようだった。
(自分で仕掛けたくせに、自分がやけどをしちゃあ、しょうがないわよね)
ブルマはつい先ほどまで一緒にいた男の余韻に浸っていた。
まだ、身体の中の熱は冷めていない。
ほんの気まぐれだった。あんなにいい男が目の前にいたのだ。
そしてその男は切なくなるほどの真摯さで自分への想いを語った。
(これで落ちない女がいたら、是非あってみたいものだわ)
ブルマは深いため息をついた。

その時、誰かに強く肩を掴まれた。
「!?」
ブルマは驚いて振り向く。
ヤムチャだ。
「どっか具合でも悪いのか?なんか様子がおかしいぜ」
「な、なんでもないわよ!それよりなによ、レディの部屋に勝手に入ってこないでよ!」
ブルマはいつもよりキツイ調子でヤムチャに言った。
「なんだよ、人が心配してるのに。そんな言い方ないだろ?!」
ヤムチャは少しムッとしたように云った。しかし、ブルマは誰とも話したくなかったのだ。
恋人がいるのに、初めてあった男に抱かれたという罪悪感からではない。
ブルマはトランクスとの余韻を誰にも壊されたくなかったのだ。
たとえ、ヤムチャとの仲がこれで壊れてしまったとしても。
それほどまでに強烈にブルマは捕えられてしまったのだった。
心が?それとも身体が?
(そんなことはどうでもいいわ。私があの男を求めていることには変わりがないもの。
そして、拒絶したこともね)
ブルマはまたぼんやりと窓の外を見つめた。
「ブルマ・・・?」
ヤムチャはただ事でないブルマの様子を心配しながらも、近づきがたい空気を察知し、静かに部屋を後にした。

トランクスは、じっとC.Cのブルマの部屋のあたりを睨むように見つめていた。
明かりはついていないが、そこにブルマがいることがわかる。
もし、ブルマが望むならトランクスは未来を変えてもいいと思っていた。
しかし、ブルマがトランクスを受け入れることはなかった。

「ヤムチャさんに悪いと思っているからですか?」
トランクスはブルマの肩を掴み、強く揺さぶった。
「違うわ!!ヤムチャは関係ないの!!!」
「では、何故?!オレを受け入れてくれたから、
その・・・あんなことを・・・したんじゃないのですか」
ブルマは目を硬く閉じ、かぶりを振った。

「オレが嫌いですか・・・・?」
「嫌いじゃないわよ!・・・多分、好きだと思う。でもね、何かが違うのよ・・・」
トランクスはブルマの言葉にギクリとした。
「違う・・・?」
「そう、あんたに抱かれている間は、あたしの素敵な王子様だと思ったけど・・・違うの。
うまく言えないけど、別のあたしが、あたしを止めるのよ・・・。
でもね、あんたを求める自分もいるのよ。
あんたと地獄に落ちたいと思うあたしがね。
どっちも本当のあたしの気持ちよ。

・・・あら?なんでトランクスと素敵な関係になることが地獄に落ちるなんて思ったのかしら。変ね・・・」
「ブルマさん」
「おかしいわよね、自分でもよくわからないわ」
ブルマは自分の云ったことに首をかしげていた。

(そうだ、オレはこの人を苦しませてはいけないんだ。
・・・もう手遅れかもしれないけど)

トランクスはブルマの太ももを伝って流れ落ちる、無残な刻印に目を落とした。
(オレは・・・なんてことをしてしまったのだろうか。
自分の母親に手をかけるなんて・・・)
いくら自分より若くても、いくら時代が違うといっても、ブルマはこれから自分を生む母親だ。

(オレは馬鹿だ。母さんの気持ちを考えなかった)
トランクスはブルマに自分の上着を肩にかけ、片腕で抱き寄せた。
「すみません・・・。オレは、あなたを不幸にしてしまったかもしれません・・・」
トランクスは苦しそうに云った。
「あなたを誰よりも愛しく思い、誰よりも大切にしたいと思っていたのに・・・・」
「・・・トランクス?」
「あのね、あたしは自分のしたことにちゃーんと責任を持つ女なの!
あんた、あたしを不幸にしたとか、訳のわかんないこと云ってるけどさ、
あんたと・・その・・・したことは・・・あたしの意思よ!」
ブルマはきっぱりと言い切り、トランクスに笑顔を見せた。


トランクスは明かりの消えたブルマの部屋をもう一度振り返り、C.Cを後にした。
複雑な想いがトランクスの胸に、深い傷あとになって残る。

それは、ブルマに想いが届かなかったからか、
それとも、自分がブルマを幸せにすることができないことに、気づいてしまったからなのか。
それとも・・・?


トランクスは答えを見つけられないまま、タイムマシンに乗り込んだ。

紺碧に染まった空には、満月からわずかに欠けた月がかかり、
まるであざ笑っているかのように、トランクスを照らし続けた。





あとがき
こんなクライマックスがあるか!
あのトラの自信はいずこへ?

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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