同じ女を求めること

第六話 苛立ち


ブルマがリビングに来たときは、すでに皆が朝食を済ませ出払った後だった。
「ふあ〜ぁ!」
大きなあくびをし、ブルマは椅子に腰掛ける。
ふと、キラリと光るものが目に入った。
(なにかしら?たしかこの辺だったけど・・・)

ブルマは引き寄せられるように、その場所へ移動する。
「あった、これだわ!」
ブルマが拾い上げたのは、銀色に輝く小さなバッジだった。
「なによ、ウチのバッジじゃないの」
それは、”C”という文字がデザインされた、カプセルコーポレーションのバッジだ。
まだ新しいせいか、メタルクロームの光沢がある。
年月がたつと、その光沢は消え、燻されたような銀色に変わっていくので、
これはおそらく昨日トランクスにあげたものだろう。

しかし・・・
よく見ると少しゆがんでしまっているようだ。

トランクスが握り締めた時に変形してしまったのだが、ブルマはその事を知らない。
ブルマはそのバッジをポケットにしまった。




ブルマはトランクスの部屋を訪れた。
昨日のことも気になっていたし、出社前にバッジも渡そうと思っていた。
「おはよう、トランクス」
トランクスはベッドの縁に寄りかかり、膝を立てて窓の外をぼんやり眺めながら座っていた。
「おはようございます・・・」
「昨日は大丈夫だった?」
べジータに吹き飛ばされたトランクスの体を、ブルマはあちこちに触れ、
傷が残ってないかを確認する。
「大丈夫です
父さんだって本気じゃありませんでしたから」
トランクスは警戒心が全くないブルマの行動に少し苛立ち、
自分に無遠慮に触れている手をつかんだ。

「ブルマさん、今日は少し一人にしてもらえませんか」
トランクスは淡々とした口調で言う。

が、トランクスの視線が、ブルマのある一定の場所に釘付けになった。

(・・・?)
ブルマがその視線を追うと、肘と手首の間にうっすら赤いアザが出来ている。
ブルマはハッとして、その部分を隠す。


「父さんですね、その指の跡は・・・っ!」
「ち、違うわ」
ブルマは否定したが、両腕の同じ位置に不自然に出来たアザは、
トランクスの昨日の苦しみを思い出させた。

べジータがブルマの両脚の間に体を割り込ませ、その両腕を掴む。
そうすると、べジータの手の平は丁度その位置にくるのだろう。
そんなことは考えたくもなかったが、トランクスには容易に想像できてしまう。

「あなたはひどい人ですね・・・
オレの気持ちを知っていながら、父さんとそういうことをする。
昨日、オレがどんな気持ちでいたかなんて、考えもしなかったでしょう」
ブルマは籍こそ入ってはいなかったが、事実上べジータの妻である。
横恋慕してきた自分の勝手な言い分だとわかっていたが、
ブルマをなじらずにはいられなかった。

今のトランクスには、それほど余裕がなかったのだ。

トランクスはブルマを自分の胸に引き寄せた。
そして、そのまま体をひねり、ベッドの上に押し倒すようにブルマに覆いかぶさる。
「トランクスッ!」
ブルマは悲鳴のような声をあげたが、完全防音の部屋から声が外に漏れることはない。
トランクスは構わずに、ブルマの首筋に自分の唇を押し付けた。
「あんたは待つっていったじゃない!あれはウソだったの?!」
ブルマはトランクスの体を押しやりながら、喚いた。

トランクスの動きが一瞬止まる。

が、すぐにブルマの口を塞いだ。

「っ・・・!」
トランクスは硬く閉じられたブルマの唇をこじ開けるように、熱い舌を侵入させた。
「ん、んーー!」
ブルマは首を横にふり、トランクスの熱い唇から逃れようとする。

しかしトランクスはブルマの頬を押さえ、再び舌を滑り込ませると
ブルマの舌の裏側を自分の舌でなぞった。
「・・・っ」
ブルマはトランクスの強引ともいえる行為に、体の中から雫がしたたり落ちるのを感じた。
しかし、引きずり込まれそうになるのを押さえ込むように、自分に言い聞かせる。
(ダメよ、ブルマ。
今、ここでトランクスを受け入れたら・・・べジータとトランクスの間に埋められない溝ができる)

「・・・やめなさい!トランクス!」
ブルマはトランクスを押しやった。
しかし、ブルマの力でどうにかなるわけはない。
トランクスはブルマの額にかかる髪を手で梳きながら、怒ったように目を細めた。
「これ以上はしないという約束は守ります。
ですからもう少し、このままで・・・」

トランクスの前髪が一筋、はらりと落ちる。
トランクスはここへ来たときよりも、少しやつれているように見えた。
それもそのはずで、二日前のあの夜からトランクスは寝ていない。
そして疲れを色濃く残す皮膚が、トランクスを一層切なく見せていた。

(あたし、本当はトランクスに抱かれてみたいと思っている・・・
でも・・・その後はどうなるの?)
ブルマは思い出したように、ごそごそとポケットを探り、トランクスの前にそれを突き出してみせた。

「これ、あんたのでしょ?」

「リビングに落ちてたわよ」
ブルマはトランクスの意識がそれたことを確認すると、覆い被さっているトランクスの体を起き上がらせた。

「大切なカプセルコーポレーションの・・・あんたのバッジ」
「・・・」
無言でそれを受け取るトランクス。
「今日は午後から出社よ。あんたもくるんでしょ?」
ブルマは乱れた髪をなおし、トランクスをまっすぐに見つめた。

「はい・・・」
「そう、いい子ね。じゃ、昼過ぎに迎えにくるから」
そういうと、ブルマは逃げるようにトランクスの前から去っていった。

(トランクス・・・あたしはあんたを好きになっちゃいけないの。
もう遅いかもしれないけど・・・)

ブルマは長い通路を思いつめたように歩いていく。


続く


あとがき
今回短いですね・・・

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