ブルマさん
オレはあなたと逢えないこの2年間
あなたのことばかり考えていました
未来の世界に戻ってきたばかりの頃は
あなたに逢えない寂しさから、メチャメチャに自分の体を痛めつけたこともありました
しかし平和になったこの世界では、オレと同等に戦える相手も、敵もいるはずもなく
ただひたすら自暴自棄になっていたんです
でも、そんなオレを救ってくれたのは
他でもない、未来のあなた
つまり、母さんでした
母さんはこちらの世界でも、あなたと同じことを言っていたんです
カプセルコーポレーションはあたしの分身だ・・・と
オレはハッとしました
そしてあなたからもらった銀色のバッジを身につけ、
母さんと共に世界を発展させるため
オレの全てを賭けることにしました
迷わなかったわけではないけど
過去へいても
未来へいても
あなたを見ていることには変わりはありませんから
オレは未来の世界へ戻ります
でも、忘れないでください
オレは、あなたを
ブルマさんを
誰よりも愛しているということを
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べジータの苦しみはブルマの苦しみでもあった。
痛み止めが効くわけもなく、べジータはベッドの上で呻き続けていたが、
朦朧とした意識の中で、ブルマの名前だけを呼んだ。
「ブルマ・・・」
「べジータ!大丈夫よ!あたしはここにいるから!」
ブルマは何度ともなくべジータの手を握りしめ、答え続けていた。
その時、
窓の外からまばゆい光がC.Cを照らす。
「タイムマシンだわ!?」
ブルマが窓際に駆け寄ると同時に、トランクスが舞空術で窓の外に現れた。
いそいで窓のロックを外すと、トランクスを部屋の中へ招き入れる。
「ブルマさんっ!」
トランクスは2年前と同じように、ブルマの名前を呼んだ。
「トランクスっ!」
「これを父さんに」
トランクスはジャケットのポケットから小さなビンを取り出し、それをブルマの手のひらに乗せた。
「ありがとう・・・」
ブルマはビンのキャップを開けその薬を自分の口に含み、べジータに口移しで飲ませると
無意識に薬を飲み込んだようだった。
「ちょっといいですか」
トランクスは薬が効いているかを確認するため、べジータの口元に耳を寄せ、
呼吸が穏やかに変わっていくのを確かめた。
「しばらくすれば、元気になります」
「・・・あんたがいてくれてよかった、トランクス」
「いえ・・・」
トランクスはどこからか小さな椅子をひっぱってくると、ブルマに座るように進めた。
「どうせ、父さんが目を覚ますまで、ここにいるんでしょう?
ブルマさんの食事は後でオレが運びますから、
あんまり無理しないで父さんを看病してあげてくださいね」
「・・・ありがとう」
ブルマは少しだけ微笑むと、椅子に腰掛けべジータの方へ体を向けた。
その様子を見ていたトランクスは、自分の甘さに心の中でため息をついた。
(どうしてオレは父さんを助けたりしたんだろうか)
べジータのことで頭がいっぱいになっているブルマは、
トランクスの時間が2年も経過していることに気づいていない。
べジータの意識が戻ったのは次の日の昼過ぎだった。
気づくと、ブルマとトランクスの顔が自分を覗きこんでいたのだ。
「オレは・・・」
べジータは上半身を起こしあたりを見回す。
「気づいたのね・・・べジータっ」
「ブルマ・・・?」
「父さんはウイルス性の心臓病で倒れたんです」
トランクスが状況を簡単に説明した。
「そうか・・・」
べジータはベッドから起き上がると、手足の関節を順に曲げたり、気をコントロールしてみたりと、
自分の体のあらゆる部分の確認をしていった。
そして、もののついでのようにトランクスへ言う。
「特効薬は貴様が取りにいったんだろう?」
「・・・どうしてそれを?」
「貴様を見ればわかる」
べジータははっきりとは言わないが、トランクスの体の変化、
つまり2年の歳月を感じ取っているようだ。
「体の調子はいいようだな。
すぐにでもトレーニングを始めるか」
べジータはパジャマの上を脱ぎ、いつものトレーニングウェアのあるクローゼットを開けた。
「まだ早いわよ!!病み上がりじゃない」
「オレをなめるな・・・貴様らとは体の出来が違うんだ!
だが・・・
腹が減った・・・先にメシだ」
べジータはポツリと言った。
「そうよね!あんた何も食べてなかったもんね!
今日はパーッとバーベキューでもやりましょうよ!!」
「肉か、いいだろう」
べジータはいつもの不敵な笑みを浮かべて、舌なめずりをする。
さすがのべジータも空腹には勝てないようだ。
「ははは・・・病み上がりにバーベキュー・・・ですか」
トランクスはあきれたように、二人を交互に見つめた。
C.Cの広い庭に、バーベキューパティーの用意がされている。
ブルマの母親とお手伝いロボットが、大量の肉や野菜を串に通していく。
食事の用意ができるまでの間、べジータは重力室でトレーニングをすることにした。
べジータにとってあの程度の病気・・・といっても未来の世界では孫悟空が死んでしまうほどの病だったが・・
は、大切なトレーニングを中断するほどのものでもない。
数日前と同じように、べジータは重力装置の入力を始める。
その時、べジータめがけて蒼い気弾が襲いかかる。
それを視線を動かさずに左手で払うと、べジータは喉の奥を鳴らすように笑った。
「随分と体がなまっているようだな、トランクス」
金色に逆立った髪と、翡翠色の瞳に超化したトランクスが、べジータの後ろにストンと降りた。
「超サイヤ人の状態での攻撃が・・・この程度とはな!」
トランクスの気が数日前よりも弱くなっている
(こいつ・・・未来へ帰っている間、修行をサボっていやがった!)
トランクスは金色のオーラを解き、深く息を吐くと
ゆっくりと視線を上げ、べジータの視線にあわせた。
「父さん、オレは夕食の後、未来へ帰ります。
だから、今のうちにあなたに言っておきたいことがあるんです」
「フン。わざわざトレーニングの邪魔をしてまで言うようなことか?」
「別に・・・夕食の後は、どうせあなたはブルマさんと一緒にいるんでしょう?」
トランクスは顔を背けた。
「オレはブルマさんをあきらめたから、未来に帰るわけではありません。
未来の世界でのブルマさんを見つけたんです」
「なんだそれは」
「カプセルコーポレーションですよ」
「オレは元の世界で、あの人の分身ともいえるカプセルコーポレーションを
世界一の企業にしてみたいと思ったんです」
「・・・貴様の言うことは意味がわからん」
「父さんには・・・わからないでしょうね
あなたはブルマさんのことを半分しか理解していないんですから・・・」
トランクスはべジータがくって掛かってくることを期待し、
喧嘩を売るような口調で言った。
しかし、べジータは顔をしかめるだけで、トランクスの次の言葉を待っている。
トランクスはジャケットの胸のポケットから、小さな何かを取り出してべジータに渡した。
「・・・?なんだこれは」
「カプセルコーポレーションの社章です。あなたからブルマさんに返しておいてください」
「自分で返せばいいだろう」
べジータは舌打ちをした。
「夕食が終わったら・・・ブルマさんには言わずに帰ります。
別れはつらいだけですからね。
でも父さんには、オレが帰ることは言っておこうと思って」
「フン。・・・勝手に帰ればいいだろう」
べジータは腕を組んだ。
しかし片方の手はトランクスから受け取ったバッジは大事そうに握ったままだ。
トランクスはそれを見ると、少し笑った。
「父さん。
ブルマさんと、あまりケンカしないようにしてくださいね。
では・・・また後で」
トランクスは重力室の扉を開けた。
べジータは一瞬の間を置き、トランクスの名を呼んだ。
その呼びかけに、トランクスが振り返る。
「何故、未来へ特効薬を取りに戻った?
あのまま放っておけば、オレは未来のカカロットのように心臓病で死んだはずだ。
貴様にとってはそのほうが都合が良かったんじゃないのか」
「・・・オレだって迷いました。
2年もの間、あの人に逢えなくなることを考えれば
あなたをほっとこうかとも思いました。
それに・・・父さんがいなくなれば、あの人はオレのものになりますから」
「・・・・何故、オレを助けた?」
べジータの黒い瞳はまっすぐにトランクスを見据える。
「あなたは大嫌いでしたけど・・・
助けられるものを見殺しにするのは、あの時の・・・ドクターゲロの時のあなたと同じになってしまう。
オレはあの時、心底あなたを軽蔑しましたから・・・」
「フン。
回りくどいことを言ってないで、はっきり言ったらどうだ。
オレが死んだら、ブルマが悲しむ・・・とな」
べジータは勝ち誇ったように笑った。
トランクスは拳を握りしめ、そのまま重力室を後にした。
C.Cで行われたパーティーは、何故か盛大なものになった。
べジータの復活祝い(?)というよりも、
名目上は、トランクスがこちらに来たからということで、
孫家やヤムチャ、クリリンや亀仙人まで集まってきたのだった。
「なんだよ、トランクス。
みずくさいじゃないか!こっちに来てたんなら遊びに来いよ!!」
クリリンがトランクスの背中をバンバンと叩く。
「え、ええ・・・」
トランクスはクリリンの人懐っこい笑顔を見て、少し頬を赤くをした。
(なつかしいな・・・オレが一番楽しかったときの、仲間なんだ・・・)
トランクスはいっそのこと、未来に帰る時期を遅らせようかとも考えた。
しかし決心の固い今のうちでなければ、帰ることが難しくなることはわかっていたので
このパーティーの間だけでも、思いっきり楽しもうと、
トランクスは普段見せないような明るい表情を作ってみせた。
ブルマは食事の間もべジータにつきっきりになり、飲み物を補充したり、食べ物を運んだり、
あれやこれやと世話をしていた。
そして、楽しそうにべジータに何かを話しかけている。
トランクスは、そのブルマの様子を見納めるようにじっと見ていた。
べジータがトランクスの視線に気づき、チラリとこちらを見たが、
ブルマの眼差しはべジータに向けられたままだった。
パーティーも終盤に入った頃、トランクスは皆に気づかれないようにこっそりと席を立ち
自分の部屋に戻ると、身辺の整理を始めた。
ホイポイカプセルを開き、今まで使っていた服や、
カプセルコーポレーションで使っていた大量のファイルや印刷物を詰める。
これはこちらの世界に置いていくものだ。
未来には何も持っていかない。
べジータはガツガツと食事を平らげると、最後にミネラルウォーターを飲み干した。
「あんたほんとによく食べるわよねー」
ブルマはあきれたようにべジータを見る。
「・・・ブルマ」
べジータはズボンのポケットの中に手をつっこむと何かを取り出した。
「トランクスから預かったものだ。
カプセルコーポレーションのバッジらしいが、貴様に返しておけ・・・と」
「返す?」
ブルマは首をひねった。
返すとはどういうことだろう。
それに何故自分に渡さずに、あれほどいがみ合っていたべジータに渡したのだろう。
ブルマは考えれば考えるほどわからなくなってきた。
「トランクスは今夜、未来へ帰る」
べジータは静かに言った。
「う、うそ・・・どうして?!何で急に!!?」
「急にだと?あいつの中では、すでに2年が経過している」
ブルマはハッとして、べジータを見た。
「そういうことだ。
特効薬を手に入れるために、あいつは未来へ戻った。
タイムマシンのチャージは往復で約2年・・・
そのことはオレよりも、貴様のほうが詳しいだろう」
「・・・でも、どうして、あたしに何も言わずに帰るの・・・トランクスは」
「それは自分で確認しろ。
あいつのことをお前がどう思っていたのか・・・オレは知っている。」
べジータはブルマを抱き寄せ、唇を合わせた。
「貴様はどんなことがあってもオレの女だ
自分の好きなようにすればいい・・・決めるのはお前だブルマ。
オレは何も言わん」
ブルマは目を大きく見開き、
そしてべジータに「ありがとう」と言うと席を立ちC.Cの中へ消えていった。
続く
(2005.9.4)
あとがき
次回最終回です。
もう少しお付き合いくださいね!
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