惑星ベジータ 3

ブルマ達の乗った宇宙船は、着陸間際にトラブルを起こし正常に操作できなくなっていた。

べジータはとっさにブルマとトランクスを腕の中に庇い、落下していく宇宙船から脱出したが、宇宙船はそのまま岩壁に叩きつけられ、木っ端微塵になってしまった。
べジータに抱えられたブルマはその様子を見ていたがと変に感心したように、ナメック星人の作った宇宙船って案外もろいのねと言う。べジータは半分あきれながら2人を抱えてはゆっくりと下降すると、岩陰に下ろした。
「様子を見てくる。ここに隠れていろ」
そう言うとべジータはさっさと飛んでいってしまった。

「もう、あいつってばこんな何もないところであたし達を置いていくなんて!」
ブルマはブツブツ言いながら宇宙船の残骸の周辺をうろうろと歩き回っていた。
そして、瓦礫の下から小さなウエストポーチを見つけ出すと
「良かったー!これ無事だったみたい。」
ブルマはトランクスにポーチの中からカプセルケースと錠剤を取り出して見せた。
「この薬を飲んでから24時間は宇宙服を着ているのと同じ効果があるのよ。この星の重力は地球の10倍らしいから事前に飲んでおいたの。それにこのカプセルの中には非常食と、エマージェンシーキット、工具類が入っているわ。宇宙船がこんなになっちゃったけど、ここは地球の科学力なんか比にもならならいらしいから、帰りは何とかなると思うの。」
「すごいや、おかあさん。」
トランクスは尊敬のまなざしで母親を見上げた。

その時、赤い空からいくつかの人影が2人の前に降り立った。
見覚えのあるスカウターに戦闘服、そして逆立った黒髪に長い尻尾・・・。
ブルマは孫悟空の兄ラディッツを見たときのことを思い出した。
「サ、サイヤ人・・・。」
「え?」トランクスは目の前にいるサイヤ人達をまじまじと見た。
確かに悟空や悟飯、そして自分の父親と顔かたちが似ている。

「この異性人をどうする?戦闘能力はゴミみたいなもんだぜ。」
一人のサイヤ人が殺してしまおうと提案している。
トランクスは自分より遙かに戦闘能力の弱い奴らにゴミと言われてアタマにきていた。
「フン。おまえらなんかに倒されてやんないからな。オレはメチャクチャ強いんだぜ!!」

トランクスは気を開放し始めた。
スカウターの数値はどんどん上がり、マックスまでくるとボンっという音がして、2人のスカウターが同時に爆発した。

「!!!」
「・・・こんなガキが?何かのまちがいじゃないか?」
「バーカ、間違いじゃないよ。しっかり見てただろう!オレだって半分はサイヤ人だから強くて当たり前なんだぜ。」
「バカな!!サイヤ人は黒髪のはずだ!!それに貴様には尻尾もない!」
「この子が赤ちゃんのときに取ったのよ!」
「なにぃ!」
「う、うそじゃないわ。べジータが必要ないから取れって・・・」
「べ、べジータ・・・べジータ王が?貴様ら一体何者だ。」
「あたしは地球人だけど、この子は地球人とサイヤ人のハーフよ。父親はべジータ。惑星べジータの王子って言ってたわ。」
「べ、べジータ様?!まさかべジータ様が下等な異星人と・・・」
「とにかく、こいつらを王のところへ連れて行こう。」

「どうする?トランクス。ここにいてもしょうがないからこいつらについていこうかしら。」
「でも、ここで待ってろって・・・。」
「いいわよ、別に。こいつらべジータのところに連れてってくれるみたいだし」
サイヤ人達は、自分達を全く恐れない異星人に舌打ちをすると、ブルマとトランクスを連れて王のいる場所へ向かった。


王宮。
べジータは王家の紋章の入った戦闘服に緋色のマントをし、王の横に用意された椅子に片膝を立て、その上に肘を乗せて、ジッと獲物を捕らえるような鋭い視線で一点を見つめながら座っていた。
王族とは思えない行儀の悪さだが、不思議とべジータの品位を落とすことなくその場に収まっている。

ところで・・・惑星べジータの王族の服装はマントの着用以外一般庶民と変わらない。
戦闘民族のためだろうか、常に戦闘服を着用している。
食事の時も睡眠の時も、いつ命を狙われるかわからないからだ。

ただ、服装は一般庶民と変わらなくても、血筋による階級制度は絶対で、王族は一般の戦士と交わり子孫を残すことはない。
より強い遺伝子を残すため、同じ王族か、エリート出身の女戦士が選ばれることがほとんどだ。
近親交配に近いこともあり、出来損ないができることも多々あるが、その場合は生まれたと同時に赤ん坊は処分される。
一人の天才が生まれれば、それで良いという考え方だ。

かえって兄弟等はいないほうがトラブルにならなくて都合が良い。
もちろんべジータにも兄弟はいないし、過去に何人かいたとしても、天才的な才能を持ったべジータが生まれたことで殺されているのかもしれない。

ただし、これは王家だけのことであり、一般庶民にはあてはまらない。
一般にjは赤ん坊も立派な戦力になるため、気に入った相手がいれば自由に交配し子を産む。
もちろん地球のように婚姻制度もなければ、特定の相手とずっと一緒に暮らすということもめったにない。お互いの利用価値がある間だけ行動を共にすることがほとんどだ。

ちなみに、エリート戦士も下級戦士も、他の星を征服したときに戦利品として人型の異星人を抱くことは普通に行われるが、種を残すことなく殺すのでサイヤ人には純血種しか存在しない。

べジータの視線が先ほどから捉えていたものは、末席にいる、おそらく下級戦士と思われる人物だった。
その人物はカカロットと良く似た気を持ち、そしてなによりも顔から背格好までそっくりであった。
いくらサイヤ人の顔パターンのバリエーションが多くないといってもあまりにカカロットに似すぎている。

「カカロット・・・。」
ついライバルの名前を口にした。
それほど大きな声ではなかったのだが、末席にいた人物はしっかりとその単語を拾っていた。

「べジータ様。オレはカカロットの父親バーダックです。カカロットは戦闘力が低かったため生まれてすぐ地球という辺境の星に送り込みました。べジータ様はカカロットをご存知でしたか。」
ご存知もくそもあるか。べジータは心の中で毒づいた。
べジータのプライドと絶対の自信をボロボロにした張本人だ。どれだけ強くなっても常に自分の一歩先にいる天才的な力を持つ下級戦士、カカロット。

「いい事を教えてやろう、バーダック。フリーザのヤローを倒したのは貴様の息子のカカロットだ。もっとも甘っちょろい感情で奴にとどめを刺さなかったがな。」
「フリーザを!!?」
バーダックはフリーザを阻止するため命を落としている。そして死の間際、脳裏に浮かんだのは自分の息子カカロットだった。
べジータは驚きから誇らしげに変化していくバーダックの気をしっかり感じていた。
もちろん、表面上はなにも変わっていないのだが。

べジータはふと思った。サイヤ人は親も子も平気で殺しあう種族ではなかったか。
べジータ自身も自分以外は全て敵だと思ってきた。
が、物心つく前から戦いに明け暮れ、ほとんど惑星べジータにはいなかったので他のサイヤ人の習性をあまり知らない。
かかわりのあったサイヤ人といえば、せいぜいナッパとラディッツ、そして自分の父親である王だけだ。

だが、バーダックは息子の戦勝に脅威を感じることなく誇らしげに思っているようだ。
何故だ。

地球でなまっちょろい環境で育ったカカロットならともかく、バーダックは下級戦士とはいえスバ抜けた戦闘力をもっている。

サイヤ人はエリートと下級戦士では考え方が違うのだろうか。
自分は帝王学は徹底的に教え込まれたが、一般のそれも下級ランクのサイヤ人のデータは皆無に近い。

ラディッツも下級戦士だったが、生まれたときの戦闘能力が高かったため、ほとんどべジータと行動を共にしていた。
だから、考え方も環境も一般の下級戦士とは多少違っていたのかもしれない。

「カカロットの奴は超サイヤ人を超えたぞ。」
「超サイヤ人・・・伝説の超サイヤ人を・・・?」
「そうだ。超エリートのオレを差し置いて、だ。もちろん今はオレも超サイヤ人を超えているがな。」

王の近くに陣取っている、いかにも参謀らしい奴がスカウターのスイッチを入れたり切ったりしていた。
「べジータ様の戦闘力は0を指していますがスカウターの故障でしょうか?」
「フン。故障ではない。地球の奴らは戦闘力のコントロールを身につけているのだ。スカウターなんぞ必要ない。気を探ることもできるからな。」
「気のコントロールを?」
「そうだ。そのスカウターでよーく見るがいい!!!」
緋色のマントがひるがえり、べジータの体から金色のオーラがバチバチとスパークした。

スカウターの数値は勢い良く上がり小気味よい音をたてて爆発した。
「!!!!!」

「どうだ。瞬発的に出せる数値はこんなもんじゃないぞ。」
べジータは金のオーラを解いた。

その場にいたサイヤ人全員があっけに取られ、そして驚愕の表情へと変わっていった。

その時、
「べジータ王、怪しい異性人を捕らえました。」
「ちょ、痛いっってば!」
「ママに乱暴するなよっ。」
「ブルマ、トランクス・・・!!」
「べジータ!」
「この異星人の女をご存知なのですか?べジータ様。」
「フン。ご存知もなにも」
「こいつはオレの妻だ。それに・・・このチビはオレのガキだ」
「!!!」
一瞬の間、ざわめきが起こった。
ブルマを乱暴につかんでいたサイヤ人は、反射的にブルマの腕から手を離した。
しかし決してべジータの妻に無礼を働いたことに慌てて手を離したというわけではなかった。
ブルマは力のない、ただの異星人の女でしかない。
その女に王子はなぜ高貴な血の種を与えたのか。なぜ王子ともあろうお方が殺さずにいたのか。

そんな嫌悪から殺気へと変わっていく空気をブルマは感知した。そして・・・

あたしは殺されるかもしれない −。ブルマは戦慄した。

トランクスはおそらくここにいるサイヤ人よりも数倍は強い。
べジータだってみすみす自分の妻を見殺しにするようなことはないはずだ。
しかし、べジータやトランクスだってこの人数を相手に自分を守りきることなんてできるのだろうか。
そうなれば、自分は一瞬で殺されてしまう。

「ママ!」
ブルマの気の変化を感じ取ったトランクスは、超サイヤ人へと超化して戦闘態勢に入った。
「ママに手を出す奴はオレが許さないぜ」

トランクスの見た目はサイヤ人の特徴が全くといっていいほど出ていない。
唯一あったのは尻尾だが、生まれたときに切り落とされているので既にない。
王宮に集まったサイヤ人達は、先ほどべジータが超化した超サイヤ人と同じ、金色のオーラを纏った異星人の子供にドキモを抜かれていた。

べジータはその様子を面白そうに見ていたが、
「貴様ら、ついでに教えてやるがそのガキ、トランクスはあのフリーザとフリーザを父親を一瞬で殺しているぞ」
正確に言えば未来のトランクスが・・・だがな。そう言うと、べジータは大きな口をあけて笑った。

シンとした空気の中、べジータの笑い声だけが響いていた。

「べジータ。お前は何故その女が子を孕む前にを殺さなかった?」
王は威厳のある、しかし呻くような低い声でべジータに言った。

「・・・さあな。オレにもわからんな。」
べジータは、口元に薄く微笑を含んで、視線だけをブルマに向けて言った。
いつでも殺せたのに、何故ぐずぐずと生かしておいたのか。
当時のべジータは自分の感情を理解できなかった。
カカロットのように甘っちょろい感情が自分にもあり、妻子を守りたいのだと自覚したときには自分自身がゆるせなかった。

もし、惑星べジータとサイヤ人が滅びていなかったら、ブルマと交わることもなく・・・または地球を征服し、ブルマを戦利品として扱っていたといたとしても、必要なくなれば容赦なく殺していただろう。
とはいえ、実際には地球は征服できなかったのだし、べジータが強くなる要素としてブルマは必要不可欠だったのだから、やはり今のように愛しい気持ちが芽生えたのかもしれないが。
それでも当時は、べジータは自分の気持ちを素直には認めていなかった。

王は静かに言った。
「・・・わかった。その女と子供は殺さずにおいてやる。だがべジータ、誇り高き我が種族の中に、異星人の妻子を迎えることはできない。」
「わかっている。」
「それから・・・。お前はここに残りこの星を治めろ。惑星べジータの名を持つおまえは、王となり強く高貴な血を次代に残すのだ」

あたりから歓声があがった。
この最強の戦士が惑星べジータを治めることは戦闘民族のサイヤ人にとってどれだけ血が騒ぐことだろう。

フリーザはもういない。
新しい宇宙の支配者になり、ひたすら戦いに明け暮れることはサイヤ人にとって夢のようなことなのだ。
「べジータ。皆はお前をのぞんでいる。次期王は王のオレを殺し王座につくのだ。サイヤ人は力こそ信ずるべきものであり、それが全てだ。」
王は玉座から立ち上がり緋色のマントをバサリとはずすと、べジータに体を向けた。
王座につくものは常に1人だ。現実主義のサイヤ人にとって、危険な芽を摘み取っておくのは日常的に行われることであり、それが親子だろうと例外ではなかった。
「では、王よ。望みど通り殺してやるぞ」
べジータは右手の人差し指と中指をまっすぐに王へ向けると、口元に軽い笑みを浮かべた。
瞬間、細い光が指先から走った。

ドンッ。

一瞬の出来事にあたりは息をのんだ。

べジータの気は王の肩すれすれで爆発し、玉座だけを破壊していた。
さすがに惑星べジータを治める王だけあって、微動だにもせずにいた。
しばらくの間、眉間に深い皺を刻むと、べジータに向かい言った。
「貴様、何のつもりだ。王子ともあろう者が怖気ついたか。随分腑抜けになったものだな」

「勘違いするな、王よ。オレはあのくそったれのカカロットを倒しナンバーワンになるまで地球に居座るつもりだ。だからオレは王になどならん。」
そう言うと、王を睨みつけ、クルリと踵をかえすと、ブルマたちの捕らえられている方へスタスタと歩いていった。

「べジータ様!」
「べジータ王子!」
辺りからは、べジータを呼び止める声が起こったが、気に留めるふうでもなくブルマ達の所までくると
「ブルマ、トランクス、お前達は先に地球に戻ってろ。オレはもう少しやることがある」
「え?あんたは一緒に帰らないの?それにあたしまだなんにもこの星のこと見てないわよ」
ブルマはとらえられたことの恐怖よりも、地球よりも優れた文明をもつこの星の科学に興味を向けていた。

この女らしい。
気丈なのか、未知のものへの好奇心がそうさせるのかは分からなかったが、多分後者だろう。
力もないくせにフリーザや人造人間をわざわざ戦場まで見に来るくらいの女だ。そして、今さらながらそんな女を好ましく思っている自分に気づく。

とはいえ・・・
この状況では王子である自分の妻ではあるが、殺されるか他のサイヤ人に犯されてるかのどっちかだろうことも予測はつく。ましてや半分サイヤ人王家の血の流れるトランクスは純潔なサイヤ人にとって脅威であり、誇りを傷つけられる存在だ。
いくらトランクスが強くても多勢のサイヤ人を相手では無事ではいまい。

べジータはバーダックをチラと見た。漠然とだが、バーダックはブルマ達に危害を加えることはないだろうと思ったからだ。
昔のべジータから見れば、他人を信じる行為は愚か以外の何者でもなかった。
(もちろん今でもそんな弱者の甘い感情は理解していないと思っているが)

「バーダック、フリーザ軍の宇宙船があるところまでこいつらを連れて行ってやってくれ。」
「わかりました。べジータ様」
ブルマとトランクスはバーダックと呼ばれた男を見て驚いた。

「そ、孫くん・・・?」
「おじさん!」
バーダックは自分へ向けられる視線を気にするふうでもなく、2人を担ぎ上げると奥へと消えていった。

「さてと」
べジータは王宮に集まった人々をぐるっと見回した。

あとがき
煮詰まってます。
でもまだ続きます(><)

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