惑星ベジータ 6

惑星べジータの頭脳とも言うべきメインコンピューターは、宇宙船が利発着する場所に比較的近い場所に設置されている。
ちなみにブルマがこのコンピューターへ侵入したのは、宇宙線が集まるゲートの中心にある部屋の端末からからだ。
たった今、べジータとバーダックが立っているこの場所だ。



大きなモニターを前に、二人のサイヤ人は会話を続けていた。
べジータはふと、あることに気づいた。
モニター上から地球が消えていた。確か、破壊させるようセットされたはずだったが。

(そうか、ブルマの奴だな)
おそらく、地球にセットされた破壊命令に気づいたのだろう。
ブルマの手にかかれば、こんなセキュリティーの甘いコンピューターのプルグラムを書き換えることくらい何でもない。
気絶して積み上げられていた奴らは、多分トランクスにやられたのだろう。
そして・・・

べジータはバーダックに背を向けたまま穏やかな口調で言った。
「貴様、ブルマに協力しやっがったな」
「正解だったな。サイヤ人が何人も地球に攻めたところで、超サイヤ人になれるオレ達には勝てない。せっかく拾った命を、また捨てることにならなくてすんだんだからな」
「超サイヤ人は伝説ではなかった・・・」
バーダックは先ほど見た、超化したべジータのことを考えていた。
「オレの息子のカカロットも超サイヤ人になれるとは・・・参ったぜ」
「超サイヤ人になるには、穏やかな心が必要だ。穏やかな心を持つことはサイヤ人には難しい・・・オレは純粋な悪の心を持ち、自分自身への怒りから超サイヤ人になった」
「怒り?」
「カカロットを超えられない、自分自身に怒りを感じた。超エリートのオレが下級戦士に抜かれるなんて頭にくるぜ。あの時、オレのプライドも自信はズタズタだったさ」
バーダックは少し驚いていた。
プライドの高いエリートしかも王族のべジータが、自分に対してこんなことを話すとは。
バーダックに気を感じる力はなかったが、以前のべジータの雰囲気とは全く違っていることに気づいた。
「地球に一体何があるというのか」
べジータを変えたのは地球にあるものだ。
それはうすうす解った。でなければ、誇り高いサイヤ人が異星人と子をなすことは考えられない。
ましてや、口に出していわないがべジータは地球という星を気に入っているらしい。

「そういえば・・・あの地球人の女・・・」
バーダックは額に手をやり目をつぶった。何かを思い出そうとしている。
「オレの記憶にある女だ・・・」
「何っ?!」
べジータは、思いもかけないバーダックの台詞にぎょっとして振り返った。
「あの女はカカロットと一緒にいた・・・オレがフリーザの裏切りを予知した時に見た・・・未来のカカロットと一緒にいた女・・・。間違いない」
バーダックには予知能力がある。カナッサ星人との戦いで不本意ながら手に入れてしまったものだ。
カナッサ星人は死ぬ間際、バーダックにサイヤ人の滅びる未来を見せるために、バーダックに予知能力を与えた。

ともかくも、その時に小さなカカロットは楽しそうにその女と一緒にいた。
そして、バーダックは先ほどのブルマとの会話で、女もカカロットを信頼しきっていることは感じていた。
(そうか、あの女・・・カカロットがガキの頃から関わっていたのか。そしてべジータ様にも)

べジータは内心穏やかではなかった。
(チッ。カカロットの次は、この父親までも・・・)
独占欲の強いべジータは、ブルマが他の異性と関わることを好まない。
バーダックにブルマを預けた形になったのは、他に適当と思われるサイヤ人がいなかったからで、それ以上の関わりを持つことは、べジータに軽い嫉妬の感情を呼び起こす。
べジータは、地球からざまざまなことを学んだ。
そして、地球人が持つような感情に関しても・・・。
だからべジータは、この感情が嫉妬だと理解していた。

べジータは黙って腕を組んだまま、じっとバーダックを見た。
(オレともあろうものが、全くなさけないぜ)

バーダックにはその感情は解らない。
「なるほど、地球は面白そうな星だ」
カカロットそっくりな声でそういった。

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「ママ!パパをどうして連れてこなかったんだよ!パパが帰ってこなかったらどうするんだよ!」
ひとり乗りの宇宙ポッドの中で、小さなトランクスはブルマの膝の上に乗っかっていた。
「しょうがないじゃい!べジータが帰れって言ったんだったら、そうするしかないでしょ!」
ブルマはヒステリックに叫んだ。
トランクスは悲しそうに、ブルマを見つめた。
トランクスはあまり父親のべジータを信用していない。いつも戦うことばかり考え、母親のブルマのことを大切にしていないと思っていた。
「ママ・・・」
「ごめん、トランクス、どなったりして・・・」
ブルマはトランクスを抱きしめると、小さな肩に頬を乗せた。
トランクスの肩が、次第に湿って冷たくなっていく。
「ママ・・・泣いているの?」
トランクスは大好きな母親が泣いているのが耐えられなかった。
「ママにはボクがいるよ・・・だからもう泣かないで」
トランクスは必死にブルマを慰めた。
「そうね、トランクス。大丈夫よ」
ブルマはそっとトランクスの肩から頭をあげ、トランクスに向かって笑顔を作った。
ブルマの目のふちは、涙の後で赤くなっている。
トランクスの前では、気丈でいようとするブルマが痛々しい。
(べジータは地球に戻ってくるかしら?また、あたしの家にくるかしら?)
べジータは後から地球に戻ると言っていたが、ブルマには自信がなかった。
唯一、孫悟空の存在がべジータが地球に帰ってくる意義のように思えたが、最近のべジータを見ているとその可能性も弱い。
故郷の惑星べジータよりも地球を選ぶとは思えなかった。
神龍に惑星べジータの復活を願うまでは、べジータがC.Cからいなくなることは考えもしなかった。
すっかり地球になじんだように見えたべジータに、ブルマは安心しきっていたのだ。
あの凶暴で冷酷なサイヤ人のべジータを忘れていた。

べジータの本質は変わってはいない。
王宮で垣間見たべジータは、サイヤ人の王子以外の何者でもなかった。
ブルマの知らないべジータがそこにいた。

ブルマの胸がズキンと痛んだ。
今までべジータを理解していたつもりだったが、実はべジータの考えていることなど何一つわかっていなかったんじゃないか。
それが、ブルマには悲しかった。

そして、ブルマはひとつの疑問にぶつかった。
王はべジータに言った言葉。
高貴な血を次代に残せ、と・・・
それは、ブルマ以外の純粋なサイヤ人の女との間に子供を作るということだ。
ブルマはカーっと頭に血がのぼった。

(嫌だ、それだけは絶対にイヤ・・・)
「べジータ!」
「ママ?」
ブルマはセンターコンソールにある通信スイッチを押した。

「べジータ!聞こえる?」
べジータに届いているか解らなかったが、ブルマは話さずにはいられなかった。

「・・・・!」
べジータは突然聞こえたブルマの声に顔を上げた。
「宇宙ポッドからの通信はここに届く」
バーダックは簡単に説明をした。
ブルマの声は一方的に喋りだす。

「あたしはものすごーくヤキモチ焼きなのよ!あんたがその星で他の女とエッチなこととかするのって我慢できないわ!」

「なっ!」

「もしあんたが地球に帰ってこなかったら・・・」
ブルマは少し間をおき、また言葉を続けた。

「そうね、孫くんに乗り換えちゃおうかしらー?」

べジータはカッと目を見開いた。
「なんだと!?」
しかしブルマにその言葉は届かない。

「ママ?」
トランクスは突拍子もない母親の言葉に驚いていた。
「だーってさ、いつ戻ってくるかわからないべジータをあたしが素直に待ってるとでも思う?」
ブルマは言いたい放題だ。

「イヤなら、さっさと用を済ませて戻ってくればいいのよ!」
プツンと通信が切られた。

「チッ。相変わらず下品な女だ・・・」
べジータはバーダックの手前、不機嫌を装っていたが、バーダックは面白いものでも見るような視線をこっそりと向けた。
(べジータ様に脅しをかける女がいたとは・・・面白い)

「何を笑っていやがる、バーダック!Y359の星へ行くぞ!あそこは重力がここの10倍だからな。修行にはちょうどいい」
べジータはカカロットの力の原点を見定めるため、バーダックと共に宇宙ポッドに乗り込んだ。

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ブルマとトランクスが地球へ戻ってから、半年が過ぎようとしていた。

さわやかに晴れあがった青い空を見上げ、ブルマはため息をついた。
(ホントに孫くんと浮気しちゃうんだから!!べジータのバカっ!)

ブルマはこの半年の間、ほとんどの時間を研究室で過ごした。
べジータが帰ってこないかもしれないという不安を紛らわせるために、新しい開発に取り組んでいた。

その開発とは、メディカルマシーンだ。
コンピューターに侵入した時に、しっかり惑星べジータからデータを持ち帰ってきた。
地球での解析では半分がやっとだったが、後の半分はブルマが独自に開発したシステムで行った。
(べジータが重力室で無茶をやっても、もう心配することもないわ)
あと、2日もあれば完成するだろう。
ブルマはある決心をしていた。

メディカルマシーンが完成したら、もう一度惑星べジータへ行く。
そしてべジータを無理やりにでも連れ帰る。
じっと待っているのは、ブルマの性に合わなかった。
ボディーガード兼べジータへの最後の切り札として、孫くんもつれていくつもりでC.Cへ呼んでいた。
もちろんチチには内緒だ。絶対反対するに決まっているから。
ウソのつけない孫悟空のために、ブルマは惑星べジータのことは言っていない。
ただ、新しいトレーニングマシンを開発したと言っただけだ。
案の定、孫悟空は喜んでC.Cへ来た。
「しっかしよぉー。べジータの気が全然感じられねぇ!どっか行っちまったのか?」
「あんたってさ、何も考えてなさそうなのに、たまに鋭いとこつくわよね・・・」
ブルマは油のついたツナギのまま、不機嫌そうに腕を組み、横目で孫悟空を見た。
「それよりさぁ、なんか食わしてくれよ。オラ腹へったぞ」
「・・・あんたって、ホントそれしか言わないわよね」
「そうか?」
ブルマはあきれながらも大量のバーベキューの食材を用意させた。
トランクスやブルマの母親も一緒になり、ちょっとしたバーベキューパーティのようになった。

「ママの楽しそうな顔、久しぶりに見たな」
トランクスはブルマのことを心配していたのだが、孫悟空が来てからは機嫌が良い。
(本当におじさんと浮気するのかな?)
トランクスは、ブルマが宇宙船の中で言った言葉を思い返していた。
ブルマと孫悟空は楽しそうに会話をしている。

「それでよぉ、おめぇのプリプリの写真を撮ってさ・・・」
「ちょっと!!いつの間に!!孫くん、まさか・・・瞬間移動で・・・あんたもう筋斗雲には、ぜーったい乗れないわね!!」
「いやぁ、その・・・」

「貴様、その写真返してもらおうか」

なつかしい声が聞こえた。

「べジータ!!!」
「パパ!!」

「フン、本当にカカロットと仲良くやってるとはな!」
べジータは黒い瞳をまっすぐにブルマに向けた。

「待たせたな」

「・・・べジータ・・・」
ブルマの大きな瞳が、涙であふれていく。

「待ったわよ・・・バカ」
ブルマはべジータに駆け寄ると、べジータのたくましい胸に飛び込んだ。


事情の知らない孫悟空は、片手をあげ「よぉ、久しぶりだな」と、いつもの軽い調子で言った。






あとがき
べジータとブルマ再開のおアツい話を入れようかどうしようか迷いましたが・・・やめることにしました。
ハーレクインみたいになってもイヤだな・・・と思って。

トランクスの言葉遣いについて。
トランクスはブルマとべジータの前では、通常はよい子ぶっておとうさん、おかあさん、ボク。
でも、戦闘モードや他の人の前では、ママ、パパ、オレです。

長くお付き合いくださいましてありがとうございました。



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