若社長の憂鬱 3

ブルマはジェットフライヤーの後部座席で、今日の講演に使用する資料をパラパラとめくっていた。
南の都には予定より早く着きそうだ。いつもはトランクスの舞空術で目的地までひとっとびなので(ミクロバンドで小さくなり、トランクスのポケットに入っての移動だが)ジェットフライヤーのスピードはかったるい。
もっとも、自分で運転すれば話は別なのだが・・・
ブルマは資料から目を離し、流れる風景をぼんやりと眺めた。
その時、ガーンという衝撃に襲われ、ジェットフライヤーはクルクルと回転しながら落下していった。

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トランクスはチラチラと時計に視線をやった。
講演時間まで30分もないというのにブルマがまだ到着していない。普段は一時間前には会場に入るのだが、今日はどうしたというのだろう。ジェットフライヤーで移動しているので、渋滞にはまるということは考えられない。

「トランクスさん、ブルマさんに連絡がとれません」
犬の姿をした男は黒い電話を静かに置いた。動物型地球人のブルマの秘書だ。
(母さん!一体どうしたというんだ!)
トランクスは何度もブルマの気を探ったがキャッチできずにいた。
ブルマに大きな感情の起伏が起これば気を探ることもできるのだが、通常の状態では難しい。
トランクスは秘書から電話を奪うとC.Cのナンバーをプッシュした。
数回のコールの後、お手伝いロボットの機械的な声が聞こえた。
「父さんをたのむ!」
トランクスはイライラしながら、べジータが電話に出るのを待った。
「なんだ。トレーニングの邪魔をするな」
しばらく待たされた後、べジータの不機嫌そうな声が聞こえた。
「父さん!母さんの気を探れませんか?まだこちらに到着していないんです」
「・・・貴様、そんなことでオレのトレーニングを邪魔しやがったのか」
「でもおかしいですんですよ!時間に正確な母さんが遅れるなんて・・・何かあったのかもしれない」
「何?ブルマは3時からだと言っていたぞ。講演まであと30分もあるだろうが」
「父さんは知らないかもしれないけど、母さんは仕事の時、1時間前には到着するようにしているんですよ」
べジータは、知らないかもしれない、と言われたことにいささかムッとした。
「知るか。てめえでなんとかしろ」
乱暴に電話が切られた。
「父さん!」
自分の最愛の妻に何かあったかもしれないというのに、この言い草はなんだ。
トランクスは「くそっ」と悪態をつくと、じっと宙を睨んで気を集中したが、ブルマの気はキャッチできない。

時計の針は既に開演の5分前をさしている。
「やっぱり母さんに何かあったんだ!オレと一緒に来ていればこんなことにはならなかったのに!」
トランクスは勢いよく椅子から立ち上がると、窓を開けて飛び出そうとした。
「社長!」
ブルマの秘書の男がトランクスの腕をつかんだ。力こそなかったが絶対に行かせないという気迫に押され、トランクスは腕を振り払えないでいた。
「あと、5分で始まります。今日は開発者向けの講演会ですが、たくさんのマスコミ関係者が来ています」
「だから何だ!」
「あなたは社長です。ご決断ください」

秘書の男は静かに、しかし有無を言わせないような口調で言った。
「決断?」
トランクスは振り返った姿勢のまま、険しい目を向けた。
「一つ目はこの講演会を延期、または中止にすること」
「二つ目は?」
「社長のあなたがブルマさんの代理で講演をすることです」
「・・・オレが?!母さんの代理?」
トランクスは目を見開いた。
「そうです。前半の1時間はスライドの用意があります。あなたも目を通しているからそこまでは問題ないと思いますが・・・しかし・・・」
秘書の男は次の言葉を一旦飲み込んだ。
「しかし?」
「気を悪くしないでお聞きください、社長。後半は質疑応答の時間です。開発者達はブルマさんの講演と同様、この質疑応答の時間を楽しみにしてきている人も大勢います。・・・そりゃそうでしょう。世界のC.CのCEOに自分をアピールする最大のチャンスがそこにあるのですよ。
ブルマさんとの議論を毎回楽しみにしている人だっています。それに・・・失礼ですが、社長にはまだ・・・」
「・・・わかっている」
「この場は講演だけで、質疑応答は中止するしかないかもしれません。もちろん決断するのはトランクスさん、あなたです」
「講演会は時間通り始める。後半は・・・お前にまかせるから上手くやってくれ」
トランクスは、開けていた窓を閉めた。
「はい、社長」
秘書の男は、ニッコリと微笑むと、電話を何本かかけた。
「ブルマさんの消息はわが社が全力を挙げて捜査いたします。だからあなたも全力でやってきてください。きっと悪いようにはなりませんよ」
「わかった。母さんのことは頼む」

トランクスはネクタイを締めなおすと、スポットライトのあたる壇上へと足を踏み出した。

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ブルマが目を開けると、そこは薄暗い倉庫のようなところだった。
どうやら気を失っていたらしい。
(ジェットフライヤーが墜落したところまでは覚えているんだけど・・・ここは病院じゃなさそうね)
遠くの方で複数の男の話し声が聞こえた。
「講演会をすっぽかせば、マスコミも大喜びで記事にするさ」
「ホントに身代金を要求しなくていいんすか?大金持ちになるチャンスですぜ」
「バカヤロー!ギャグマンガみたいなベタなことをいうんじゃねぇ!俺達の目的はそんなゲスなことじゃねぇんだ!」
「へい。すみません」
ブルマはあまりの陳腐な展開に笑いをこらえた。
どうやら自分がC.CのCEOと知っていて、ジェットフライヤーを打ち落とし、気絶している間にここまで連れてきたようだ。
男達は、何か目的があって今日の講演会をドタキャンさせたいらしい。

(・・・講演会?)
ブルマはハッとし、恐る恐る時計に視線を落とした。
(ぎゃー!3時40分!!)
講演は3時からだ。既に40分も過ぎている。電話をしようにもバッグはどこかにいってしまっている。
ブルマは薄暗い倉庫の階段を、そぉーっと降りた。
一階はガレージになっていて、アンティークなバイクが数台置かれていた。
40年以上も前に生産されたC.C社製のものが多いことから、実用で使用するためというよりもバイクコレクターとして収集していたのだろう。保存状態は良いようだが、はっきり言ってエンジンがかかるかどうかはあやしい。
その中に一台のエアバイクが混じっているのを見つけた。ブルマが通学に使っていたのと同じ小型のスクータータイプのものだ。
(やった!これなら動くはずよ)
ブルマはエアバイクにまたがると、ポケットから電子工具を取り出した。このエアバイクにはイモビライザーが装備されていないので、自分なら楽にロックを解除できるだろう。

ふと、ブルマの視線がある一点に引き付けられた。
(あ・・・・!)
ブルマはエアバイクを降り、その視線の先へ近づいていった。
(やっぱり・・・!こんなところで出会うなんて!!)
ブルマの視線の先にあるもの・・・それは一台の真っ赤なオートバイだった。

名前はGo-ku

ブルマが孫悟空に出会い、ドラゴンボール探しの旅から帰ってきてからすぐに作ったものだ。
筋斗雲に追いつけるくらいの凄いマシンを作ってやろうと思い、通常2輪には積まないようなエンジンを積んだ。
このモンスターバイクを乗りこなす人はめったにいないだろう。なにせエンジンが大きすぎる。
そして、ブルマの趣味で作ったものなので独特のくせもある。バランスが悪いと言ってもいい。
ストレートを思いっきり走る分には問題ないが、曲がる、止まるといった操作は相当の腕が必要になる。

そのG0-kuが何故ここにあるのかは解らなかったが、とにかくブルマはそのバイクに飛びついた。
電子工具に暗証番号を入力し、キーを解除した。ランプ類は生きているようだ。
(エンジンはかかるかしら)
セルスイッチを押したが、カチカチという乾いた音がするだけでエンジンはかからない。
今度はキックスタートのペダルを引き出すとステップに足を乗せ、思いっきり踏み込んだ。

バシン!!
ステップからヒールが滑り、ペダルの先が勢いよくブルマの脛を打ちつけた。
「いったーい!!」
思わずブルマは大声を出した。
慌てて口をふさいだが後の祭り、ブルマの声に気づいた男達がガレージに降りて来た。
「やばい・・・」
ブルマはステップにヒールのかかとを引っ掛けると、今度は全体重をかけペダルを踏み込んだ。
「お願い、動いて!!!」

グオーンッ!!
耳を劈くような轟音がガレージに響き渡る。
「やった!」
ブルマはタイトスカートの脇をビリビリと破ってバイクにまたがった。
思いっきりアクセルを開け、左足を軸に勢い良くターンをしてガレージの扉を突き破って脱出した。

ブルマの乗ったモンスターマシンのV12エンジンが耳元で唸る。
ブルマはバイクのタンクに上半身を沈めた。

視界はどんどん狭くなりやがて小さな点になった。
ブルマは風とエンジンの音にやさしく包みこまれ、そう・・・包み込まれるような感覚に感動していた。
(すごい・・・。べジータや孫くんは、この何百倍ものスピードで空を飛んでいるんだわ・・・)
ブルマが自分で作ったバイクだったが、ここまで走らせたのは初めてだった。
理論上は直線コースで400キロまで出せるモンスターマシンだ。
実際には、その速度に到達する前にブルマの首が折れるか、吹っ飛ばされるだろう。

その時、上から先ほどの男達の声が聞こえた。
「止まれ、止まれー!止まらないと怪我をするぞー!」
ジェットフライヤーから銃を乱射させてきた。
ブルマは広い通りからはずれ、大きな岩壁が切り立つほうへハンドルを切ると、小さな岩が転がる凸凹の道を走り出した。
思ったとおり、ジェットフライヤーは高く聳え立つ岩壁に阻まれ、大きく速度を落としていた。
ブルマもアクセルを戻しながら、右へ左へうねる道を腰を落として切り抜けた。

(もうついて来れないわ!さっすがー!あたしはこっちの腕も天才ね!)
ブルマはブレーキをかけて止まろうとした・・・途端。
後輪がロックし、バイクはキーッという高い音を出してブルマを乗せたまま横滑りを始めた。
「ぎゃあああああーーー!!」
咄嗟にハンドルを内側に切ったが、モンスターバイクの車体は全くいうことをきかない。
目の前に岩壁がスローモーションのように近づいてきて、ブルマは硬く目を閉じた。








あとがき
「Go-ku」のイメージカットは近日中にトップ絵にアップします。
(6/23 up完了しました)

本当は同時に見せたかったんですが、イラストを描きあがるのを待っていると更新ができなくて。
(イラストを描くのは時間がかかるんですよー(><)

ところで、Go-kuのモデルはトマホークです。
初めはモデルなしのモンスターバイクで書いていたのですが、ネットでトマホークがヒットしたのでこちらに乗り換えました。
すごいです、このマシン。
スペックも価格も超サイヤ人級です。
ハッキリ言って、このクラスのマシンがキックスタートが可能なのかもわかりません。
車やバイク好きな方がいらっしゃいましたら、表現がおかしいぞ!と思うかもしれませんが、笑ってゆるしてください。

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