「これで貴様の思うとおりになっただろう・・・」

べジータの手が伸びて、ブルマの髪に触れた。
無骨な指が、耳のあたりから髪をすくいあげるように、何度か往復運動を行う。

「フン・・・満足か?何もかも、貴様の筋書き通りだからな!」

べジータは怒りとも切なさともとれる眼で、ブルマをまっすぐに見た。


チェックメイト

第一章



ナメック星でのフリーザとの戦いが終わり、べジータはブルマの誘いによりC.Cに滞在していた。
何故、あれほど馬鹿にしていた地球人の・・・
しかも女のブルマの誘いに乗ったのかは、べジータにもわからなかった。
フリーザとの戦いで徹底的な力の差を見せ付けられ、プライドをずたずたにされていたためだろうか。


C.Cで生活を始めてからは、何から何まで調子が狂うことばかりで、べジータは四六時中イライラとしていた。
そんなべジータの様子を見ていたブリーフ博士は、のんきに話しかけてはべジータにうるさがられた。

「べジータくん、修行もいいが、たまには息抜きも必要じゃぞ」
そして次の日には、べジータの部屋に大量のエロ本が積まれていた。
さすがにブルマに撤去するように命令したが、しばらく置きっぱなしになっていたため、べジータは部屋に戻ることができずにいた。

「何であたしが片付けるのよっ!自分でやればいいじゃない!」
ブルマはブツクサ言いながら、積み上げられたエロ本をカプセルに詰めた。
「しっかしまあ、父さんも自分のトシを考えてほしいもんだわ」
ブルマは興味本位に、安っぽい紙に印刷された雑誌をパラパラとめくってみた。
黒髪の裸の女性が、野生の猫科の動物ような格好でかがんでいる。俗にいう雌豹のポーズだ。
しかし、こんがりと焼けた褐色の肌に、健康的なボディを持つモデルのせいか、それほどいやらしさはない。
「ふーん」
ブルマは雑誌を床に置き、モデルと同じポーズをマネしてみる。
「ふんふん」
体勢が不自然に曲がっているが、それらしく見えるんじゃないだろうか・・・

その時・・・

扉の開く機械音がしたかと思うと、べジータが部屋に入ってきた。

「・・・」
「・・・」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔とはこんな表情のことをいうのだろう。
いつもは怒ったような目が、飛び出さんばかりに大きく見開かれている。

しばらくの間、先に口を開いたのはべジータだった。
「貴様・・・何をしている・・・」
自分の部屋で下品な本を広げ、男を誘うような格好をしたブルマの意図がわからず、べジータは一瞬戸惑った。
が、すぐにいつもの不機嫌そうな表情に戻った。
「何って・・・あんたの本を片付けてるんじゃない」
「貴様の父親が勝手にやったことだろう!」
「そりゃそうだけどさ
あんた達サイヤ人ってのはこういうものに興味がないのかしらねー。
孫くんもそうだったのよね。
ま、チチさんと子供まで作っちゃってるから、今はどうだかわかんないけどね」
「フン。カカロットの奴め、地球人などとガキなんぞ作りやがって」
「あら?羨ましいの??あんたも男なのねー」
「くだらんこと言ってないで、さっさと片付けろ!殺されたくなければな!」
べジータはそう言うと、また部屋を出て行ってしまった。
「何よあれ。だいたい、なんでレディのあたしがこんなことやらなきゃいけないのかしら!
ウーロンにでもやらせときゃいいのよ!」
ブルマはぶつぶつと文句を言いながら、乱暴にカプセルの中に雑誌やらDVDやらを詰め込んだ。
「さ、おしまい!」
ブルマはカプセルのボタンを押し元のサイズに戻し、べジータの部屋を後にした。

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C.Cの夕食は家族全員でとることが多い。
べジータがC.Cに来たばかりの頃は、一緒に食事をするのを嫌がり、ブルマの母親がべジータの部屋まで食事を運んでいた。
が、馬鹿みたいに大食らいなサイヤ人にとっては、その量だけでは腹の足しにもならなかった。
腹を空かせたベジータは、皆が寝静まった頃に冷蔵庫を漁るか、その辺の動物を殺して喰っていた。
しかし、それは効率が悪いということに気づいてからは、夕食のメンバーに加わるようになっていた。

「あの不思議な男のコ、結構カッコよかったわー!ちょっと雰囲気がべジータに似てたけどさ」
唐突にブルマが誰に話しかけるでもなく言い出した。
「あら?ブルマさん、ベジータちゃんに似た素敵な男の子を見つけたの?ママにも貸してくれないかしらぁ」
ブルマの母親は本気とも冗談ともとれない、いつもの調子でブルマに言った。
「なんだよ、ブルマ。あいつは未来から来たとか言っている、得たいの知れない奴なんだぜ」
ヤムチャは、自分の前で他の男を褒めるブルマに少々イライラしながら、食後のコーヒーを口に運んだ。
「ふーん、妬いてるの?
いつも女の子達にチヤホヤされてヘラヘラしてるくせにさ」
「オレは別にヘラヘラしちゃいないさ!」
「してるじゃないの!今日だってあたしとデートしてるっていうのに、他の女と電話してたじゃない!」
「あれは、向こうからかけてきたから、しょうがなかったんだ!」
「へーぇ。しょうがなかったねぇ!ふん」
「まあまあ、ブルマさん。
ヤムチャちゃんは素敵だから、ブルマさんがヤキモチを妬くのはわかるけど・・・」
「なぁんで、あたしがヤキモチを妬くのよ!!
だいたいね、地球が人造人間にメチャメチャにされちゃうかも知れないって時にさ、あんた随分のんびりしてるんじゃない!?」
「だから修行してるんだろ!」

話が人造人間のことになると、二人の会話には関心がなさそうに食事をしていたべジータが、ぼそりと口をはさんだ。
「クズがいくら修行したところでエリートになれるわけではないがな」
そう言いながら、べジータは大きな皿に乗せられた肉に手をつけた。

べジータの言うところはもっともだった。
自分より遙かに強いべジータが、誰よりも過酷な修行を行っていることを知っているので、ヤムチャは何も言うことが出来なかった。
いたたまれなくなったヤムチャは席を立った。

「ちょっと待ちなさいよ!ヤムチャってば!」
ブルマは、肩を落とし、リビングを出て行くヤムチャの後を追った。


ヤムチャは自分にあてがわれた部屋で荷造りを始めていた。
「べジータの言うとおりだな・・・オレも弱いなりに真剣に修行しないと」
「ヤムチャはちゃんとやってるじゃない。さっきのは冗談よ!」
「いや、いいんだ。あいつに比べたら・・・まだまだ甘いかったのさ」
「あんな奴の真似なんかしてたら、命がいくつあっても足りないわ!
でも、ま、努力するのは良い事だけどさ・・・」
ブルマは半分慰めるように言うと、ヤムチャの部屋を後にしようとした。

「ブルマ!待ってくれ!」
ブルマは、あっという間にヤムチャの腕の中に閉じこめられた。

「ブルマ、子供作ろうぜ・・・
悟空も言ってじゃないか。お前に元気な子を産めって」
ヤムチャは壁にブルマを押し付け、ミニスカートからすらりと伸びる太ももを抱えた。
そしてブルマの下着を剥ぐと、ヤムチャ自身をブルマの中心にねじ込んだ。
「痛い!!!」
突然のことで、まだ準備の整っていないブルマは悲鳴をあげた。
しかしヤムチャはやめるどころか、下からおもいっきり突き上げる。
「なぁ、今日は・・・このままでもいいだろ・・・」
「やだ、痛い!やめてよ!」
ブルマはヤムチャの腕から逃れようとしたが、びくともしない。
「オレ達結婚しようよ・・・」
ヤムチャはますます勢いづいて腰を突き上げていたが、何を思ったのか、ふと動きを止めた。

そして、ヤムチャは奇妙な行動をとり始めた。
わずかに開いていた部屋の扉を全部開き、通路から見える位置にブルマを移動させた。

「ちょっ・・・と、誰か通ったら・・・どうするの・・よ」
ブルマは苦痛な声で講義した。
「そうさ、誰かが通ったら・・・さ」

ヤムチャはべジータを待っていた。
食事が終わったベジータが、自分の部屋に戻るために、こちらに向かってくるのを感じたのだ。
べジータはおそらく関心がなさそうに通りすぎるだけだろう。
が、しかし、サイヤ人といえども男だ。
こんな状況を見せつければ、何も感じないわけはないだろう。

ヤムチャは咄嗟に2つの計算をしていた。

ひとつは、ブルマとの仲をべジータに見せつけること。
自分が修行で不在の間、べジータがブルマにちょっかいを出さないように、2人の関係を見せつけたかった。
重力室の修理のために、ブルマは頻繁にべジータと顔をあわせている。
時には自分との甘い時間を壊してまでも、ベジータを優先していたのは、ヤムチャにとっておもしろくないことだった。

二つ目は、べジータへの小さな復習だ。
ブルマは最上級クラスのいい女だ。
美貌だけではなく、社会的地位もある。
その女を自由に扱えることは、男として最高のステータスではないだろうか。
強さではかなわないが、男の魅力としてはべジータに勝っていることになる。

しかし、それは地球人レベルのことであって、サイヤ人のべジータにどれだけ効果があるかは、ヤムチャはほとんど信じていなかった。
それでも、そうせずにはいられなかった。

予想通り、べジータは部屋の前をスタスタと通りすぎただけで、二人には見向きもしなかった。
ブルマもヤムチャに抱かれながら、べジータの姿を確認していた。

「ヤムチャ・・・あんた、べジータが来ることを知ってて、ドアを開けたわね!」
ブルマはべジータに見られたことよりも、ヤムチャが姑息な手を使ったことに悲しい気持ちになっていた。
「サイテーよね」
ブルマは衣類を整えると屋を飛び出した。

(なによヤムチャの奴!
べジータに勝てないからってあんなことするなんて!男らしくないわ!!)
ブルマの目からは涙があふれた。
(なによ、なによ!ヤムチャのバカーー!)

ブルマは次の日の朝食の席に、顔を見せることはなかった。
ヤムチャの見送りは、ブルマの母親とウーロンだけとなった。
ヤムチャは、何度かブルマに昨日のことを謝りに行こうかと思ったがやめた。
「それじゃ、しばらく戻らないから・・・ブルマによろしく言っといてくれませんか」
「あらぁ、ブルマさんが起きるまで待ってればいいのに」
「そうだぜ、あいつ恋人としばらく逢えないってのに、まったくしょーがねー奴だなぁ」
「いいんだ、ウーロン。元気でな」
ヤムチャは爽やかに白い歯を見せて笑うと、手を振ってC.Cを後にした。
(ホントにオレは何をやってるんだろう。
あいつの言うように、男としてサイテーだよな。 今はそんなことをやってる場合じゃないんだ。
3年後に向けてべジータに負けないくらい修行しなきゃな)
その時、ブルマはぼんやりと窓越しにヤムチャの背中を見送っていた。

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ブルマが複雑な気持ちで部屋に閉じこもっていたのは、その一日だけだった。
というのも、べジータが戦闘服の開発を命令してきたので、余計なことを考える時間がなかったのだ。
「貴様は科学者なんだろう。これと同じものを作れ」
例によって、高圧的なモノの言い方だ。
「あたしは洋服屋じゃないのよ!なんでこんなものを作らなきゃならないのよ!」
「3年後に死にたくなければ、ごちゃごちゃ言わずに言うとおりにするんだな」
べジータはボロボロの戦闘服を投げてよこした。

ブルマは咄嗟に受け取ると、不思議な手触りの戦闘服に興味を持ち始めた。
「?・・・なにかしら、この素材・・・すごく軽いし、随分ストレッチが利いているわね・・・」
「貴様も科学者の端くれなら、それくらい分析してみろ」
「ちょっとべジータ!それが人にモノを頼む時の態度?
それにね、あたしはブルマっていう名前があるの。
この戦闘服を作ってほしいなら、ちゃーんと名前で呼んでほしいわね!」
「貴様と呼ばれるのがいやなら、見さかいのない下品な女とでも呼んでおくか?」
べジータはそういい捨てると再びトレーニング戻った。

(あいつ!あの時、無関心に通り過ぎたふりして、しっかり見てたんじゃない!)
べジータが暗にヤムチャと交わっていた、あの夜のことを言っているのはわかった。
(なによ!恋人同士でエッチして何が悪いのよ!!)
ブルマはみさかいのない下品な女と言われたことに腹を立て、なにがなんでも戦闘服を完成させ、べジータに自分を認めさせてやろうと固く心に誓った。

ブルマはすぐに身支度を整えると、すぐさまジェットフライヤーを飛ばし北へ向かった。
メカのことなら誰にも負けないという自負があったが、今回のことは専門外なので、その筋にくわしい北の研究所に分析を頼むことにした。

数日後あがってきた分析結果を見て、ブルマはがっかりと肩を落とした。
自分の検討をつけた結果とそう変わらずに、時間だけを無駄に過ごしてしまったようだ。
ブルマはべジータにヒントになりそうなことを聞き出すと、今度は自分で取り組んだ。
不眠不休で開発に取り組んだ結果、戦闘服はなんとか形にはなったようだ。
べジータもその出来には及第点をつけ、会話のついでのように、ブルマの名前を呼んでくれた。
本人はさりげなさを装ったつもりのようだったが、べジータの頬にさっと朱がさしたのをブルマは見逃さなかった。


その夜ブルマは上機嫌だった。
戦闘服の開発のため相当疲れていたが、いつもより多くしゃべり、ウーロンを相手に冗談を言ったりもした。
食事を終えて皆が各部屋へ戻っても、ブルマはビールを片手にぐすぐすとリビングに残っていた。
今日はべジータが夕食にこなかった。 きっと戦闘服の出来を重力室で確認しているのだろう。
べジータが来たら夕食くらい付き合ってやろうと思っていたが、 疲労した体にアルコールはよく効くようで、ハイになって鼻歌を歌いだした。
「ふんふんふーん♪」
(べジータの奴、やっとあたしの名前を呼んだわね!)
ブルマは愉快になってきた。
「うふふーー。ブルマだって・・・」
「べジータがあたしの名前を呼んだわぁ。ブルマだって!きゃはははは!」
何故、名前を呼ばれただけで、こんなに喜んでいるのか不思議だったが悪くない気持ちだった。
もう遠い昔に忘れてしまった、くすぐったい気持ち。
ブルマはこの後、この気持ちを恋と知ることになる。


同じ頃、リビングの前に来たべジータは、ブルマの大きな独り言に部屋に入れずにいた。
「クソッタレ!やっぱりあいつは下品な女で十分だ」
べジータはぼそりと言うと、くるりときびすを返した。

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