チェックメイト

第二章



ブルマは早朝から重力室のモニターと睨めっこをしていた。
というのも、戦闘服の耐久性を自分の目で確認していたのと、
ベジータのトレーニング姿に興味があったからという理由からなのだが。

ブルマはべジータの戦闘を2回ほど見ている。
一回目はべジータとナッパが地球を侵略しに来た時、悟空達が戦っているのをテレビ放送や占いババの水晶越しに見ていた。
二回目はナメック星でザーボンを殺った時。
その凄まじさは今思い出しても身の毛がよだつ。
が、重力室でトレーニングをしているべジータにその時のような恐ろしさは感じられなかった。
真剣にトレーニングに取り組む一人の男にしか見えない。
信じられないことだが、今はべジータと食事を共にし、会話までする。

そして何といっても・・・

これが一番信じられないことだが、ブルマはべジータを好きになってしまったようだ。
べジータをずっと見ていたい。
べジータと話すのが嬉しい。
まるで少女のようだと思い自分でも可笑しかったが、そうなってしまったものはしょうがない。
ブルマは何かにつけてべジータの世話を焼きはじめた。


ブルマはモニター越しにべジータに言った。
「べジータ、聞こえる?」

べジータは戦闘服の耐久テストを一旦やめ、ブルマを映し出すモニターを見上げた。
「邪魔をするな。まだテストは終わっていない」
「あのね・・・べジータ」
「?」
「あたしさ・・・」
「あたし・・・」
「何だ、用があるならさっさと言え!」
べジータはイライラした様子だ。

ブルマは椅子に座りなおし、ゴクリと唾を飲み込むと一気に言った。
「あんたの事、好きになっちゃったみたい!」
「なに?!!!」
べジータは案の定、眉を吊り上げ大きく目を見開いた。
「だから、あんたがあたしのこと邪魔だって言っても、付きまとうことにしたわ」
「・・・か、・・・勝手にしろ!!!」
べジータはこれまでにないほど狼狽し、頬を赤く染めた。
「ええ、勝手にさせてもらうわ」
ブルマは勝ち誇ったように言った。

べジータは、恋人のヤムチャはどうしたなどという余計なことは一切聞かない。
もっとも、そんなことを聞かれてもブルマは答えられなかったのだが・・・。
実際、ヤムチャはまだ恋人だったし、この間の件で気持ちが落ちてしまったとはいえ、愛情がなくなった訳ではない。
ただ、より強くべジータを想ってしまっただけのことだ。
だからブルマはべジータに素直に想いを告げた。

もし、これが二股だというのなら、ブルマは無理やりにでも正当な理由をつけただろう。
ヤムチャは恋人のあたしがいるのに、他の女とも仲良くしている浮気な男だから愛想をつかしたのよ・・・と。

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べジータはその日、なかなか眠りにつくことが出来なかった。
誰かに好意を寄せられたこともなく、自分自身も誰かを必要としたこともなければ、好きだという感情を持ったこともない。
べジータには、強いか強くないか、役に立つか立たないか・・・それ以外の感情は必要のないものだった。
地球に来てからは、自分にとって役に立つというだけで、ブルマに接してきた。
向こうもそのつもりだと思っていたが、それはどうやら違ったらしい。
しかも、あの勝ち誇ったような笑いは何だというのだ。
自分は殺されないとでも思っているんだろうか。
(確かに・・・自分が効率良く強くなるためには、ブルマという女の存在は欠かせないが・・・
オレも随分と甘くみられたもんだな)
べジータは腹の底から沸き起こるような、不快な感情に我慢がならず、クソッタレと悪態をついた。

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「ちょっとべジータ!寸法測らせてくれない?」
ブルマは唐突にトレーニング後のべジータの部屋を訪れた。
「あの戦闘服、ちゃんとサイズをあわせてから量生産に入りたいのよ。
いくら伸縮自在だからって、適当に作るのはあたしのプライドが許さないわ」

ブルマはポケットからメジャーを取り出し、べジータの前に立つと、鍛えられた胸板に腕を回した。
その瞬間、ふうわりと漂う、なんともいえない風のような匂いがべジータの鼻腔をくすぐった。
べジータは一瞬気を取られたが、すぐにハッとしてブルマを突き放そうとした。
「貴様っ!」
「だから!ちょっと測るだけだからおとなしくしててよ」
「くっ。・・・はやくしろ!」
べジータの表情はブルマからは見えなかったが、きっと照れたような怒った顔をしているに違いない。
ブルマは笑いをこらえていたが、わずかに震える肩が密着しているべジータに伝わっていた。
「・・・何を笑っていやがる!」
「なんでもないわよ」
ブルマはウエストまでメジャーを下ろし、そこでハタと気づいた。
次は下半身を測るのだが・・・はたしてべジータがそれを許すだろうか・・・
ブルマの手が止まった。

「何をしている。早くしろ」
べジータはイライラとしているようだった。
「わ、わかったわよ!」
べジータが早く測れというのだ。
ブルマはべジータの脇に移動し、引き締まったヒップに手を回した。
ヤムチャならともかく、べジータとは身体の関係はない。やはり多少の照れがあった。

意識をした途端、ブルマの心臓がドキンドキンと音を立てて動きだす。
(や、やだあたしったら・・・別にベジータになんかされる訳じゃないのに) 緊張は伝染する。
べジータもブルマのちょっとした異変を察知した。
「・・・今更、男の体が珍しいわけでもないだろうが」
「なっ・・・レディに向かって失礼なこと言わないでよ!」
「フン。レディっていうのは、所かまわず男とああいうことをする奴を言うのか?」
べジータは口の端をキュッと上げ、フンと鼻で笑った。

「ふーん、やけにそこにこだわるわねぇ。
もしかして、あんた・・あたしとエッチなこととかしたいわけ?」
ブルマはずばりと言った。
「いいわよ、してやっても。
あんたがどうやってあたしを抱くのか興味あるもの。
それに、あたしはべジータが好きなの。好きな人に抱かれたいって思うのは当然だわ」
ブルマは立ち上がり、べジータの胸に顔をうずめた。


べジータの汗のにおいがする。
むせるような体臭に、ブルマは頭がクラクラしそうだった。
(あたし、頭がおかしいんじゃないかしら)
ブルマは、このままべジータが自分を快楽の世界へ連れて行ってくれるんじゃないか・・・と期待していたが、みごとにあてが外れた。
べジータはブルマをパッと払いのけると、用が済んだらさっさと出て行くよう言い残し、シャワールームへと消えていってしまった。


(なによ!こーんなにイイ女が誘ってるっていうのに・・・!あいつったら不感症かしら!!)
一人部屋に残されたブルマは、負けずにべジータのいるシャワールームに向かって叫んだ。

「べジータ!あんたはきっと・・・あたしが欲しくなるわよ!」

もちろん、べジータからは何の返事もない。
ブルマは、見えないべジータに向かってアッカンベーと舌を出すとべジータの部屋から出た。

(あんな下品な女、見たこともないぞ!
信じられん、誰があんな女など抱くものか)
自分を恐れることなく、なれなれしく接してくるブルマ・・・。
そんなブルマに、べジータは軽い嫌悪感を抱いた。

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いつのまにか、べジータはブルマを避けるようになっていた。
あの件以来、話もしていない。
これ以上ブルマにかかわると、自分の奥底まで覗きこまれるような気がしてならない。
べジータはその危険性を本能的に感じ取っていた。
戦闘では宇宙で一、二を争うほどのベジータだったが、この危険に対しては戦う術を持ってはいなかった。


「なーんか、あいつあたしを避けてるのよねぇ」
ブルマは頬杖をつき、アイスコーヒーをちゅっとすすると、母親にぼやき始めた。
自分が十代の頃は、何も考えてなさそうな母親に年中イライラしていたものだが、今はある意味尊敬していると言ってもいい。
筋金入りのマイペースと、誰にでもニコニコと振舞う様子は、実は凄いんじゃないかと少しづつ解ってきたからだ。
そしてなんといっても、母親は人の気持ちの敏感に察することのできる天才だ。
残念ながら、その気質はブルマにはその半分も遺伝しなかったようだが・・・
「べジータちゃんのことかしら?ブルマさんはべジータちゃんが大好きだものねー」
「あたしはヤムチャの恋人よ!そりゃ、べジータは・・・好きだけどさ」
「ママ、難しいことはよくわからないけど、ブルマさんがべジータちゃんのことお気に入りなのは最初からわかってたわよー」
「最初から?!なんでよ」
「だぁーってぇー。ママもべジータちゃん好みだものー」

相変わらずとぼけた返答に、ブルマはアイスコーヒーをこぼしそうになる。
「さあさあ、ケーキが焼けたわよ。今日はね、ブルーベリーパイにしてみたの。
きっとべジータちゃんも気に入ると思うわ」
「ちょっと、なんでそこにべジータが出て来るのよ!」
「あら?さっきべジータちゃんに声をかけたのよ。
おいしいケーキをたくさん焼いたから後で来てねって」
「くるわけないでしょ、あいつが!」
「うーん・・・そうかしら?」
ブルマの母親はリビングルームの入り口に目をやった。
ブルマもそれにつられて振り返る。

べジータだ。
「べジータ!」
「フン。そこの女が旨い物を食わせるというから来てやったんだ。
貴様に用があるわけじゃない」
(なによ、あたしのことは避けてるくせに、母さんの誘いならいいっていうの?)
ブルマは母親に軽い嫉妬をした。
ブルマの母親はそれに気づかないふりをして、ブルマから離れた場所にべジータの席をこしらえた。
あまり近くだと、べジータが寄って来ないことを知っているようだった。
べジータは当然のように、その席に座った。
そのさりげない様子を見て、ブルマはまたもや母親に嫉妬した。
(べジータってば、あたしの知らないところで母さんのケーキを食べに来てたんだわ!)

母親は2ホールのケーキと、口直しのローストチキン(!)をべジータの前に置き、コップにミネラルウォーターを注いだ。
べジータは何も言わずにガツガツと食べ始めた。

「あたしの誘いには乗らなくても、母さんならいいのね!」
ブルマは意地の悪い口調でべジータをなじった。
もちろん誘いの次元が違うことは解っていたが、サイヤ人にとって、食欲も性欲もたいして変わらないんじゃないかと思っている。

べジータは無視して食べ続ける。
タイミングよく、ブルマの母親はコップに水を注いでいく。
(無視するのね!)
ブルマは半分以上ケーキを残したまま、ガタンと席を立った。

その時ブルマの母親は、唐突にとんでもないことを口にした。

「べジータちゃんは、ブルマさんのこと愛しちゃったのねー」

はぁ?
ブルマはもちろん、さすがのべジータも手を止めた。
ブルマの母親の話は、飛躍しすぎて理解できないときがある。
鋭すぎる勘が未来をも見越して発言するのだが・・・他人にはわからない。
あまりにぶっ飛んだ言葉に、二人は返す言葉もなかった。

「ママにはわかるのよー。
べジータちゃんがブルマさんを避けているのはね、そのせいなんじゃないかしら?
テレやさんなのよ」
ブルマの母親は、べジータにではなくブルマに言った。

「どうしてそうなるのよ?こいつは凶暴なサイヤ人なのよ!そんな感情があるとは思えないわ!」
ブルマはつい思ってもいないことを口にした。
このサイヤ人の王子様はおそろしく高いプライドを持っているが、ベジータの懐に入ってみると、以外と素直でわかりやすい。
ブルマに時折みせる照れた表情などは可愛いと思うし、凶暴さとのギャップがブルマの好ましいと思っている。

「よーくわかっているじゃないか。
オレは利用できるものを利用しているだけだ。
カカロットのような甘っちょろい感情など、オレにはない」
べジータはブルマに同意するように言った。
「そうよね!あたしは役に立つ女だものね!ふん!
じゃあ、あたしを避けてないでとことん利用しなさいよ!」
ブルマはそのままダイニングを出て行ってしまった。
「あらあら、ブルマさんたら・・・」

べジータは気にもとめず、最後のケーキの切れ端を口の中に放り投げた。

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