チェックメイト

第三章


べジータは早朝から夜中まで、毎日毎日重力室でのトレーニングに明け暮れていた。
3年後に出現するという人造人間と戦うためというよりも、
カカロットよりも強くなるというのが最大の目的だったのだが。
べジータの脳裏には、常に超サイヤ人になったカカロットが立ちはだかっていた。

(クソッタレ!このオレが下級戦士のカカロットに負けるはずはないんだ!)
(オレは超サイヤ人になれる、絶対に!!)
ベジータは自分の焦りを認めない。
余裕のない、惨めな自分の姿を認めるくらいなら、死んだほうがマシだった。

べジータは自分の体を限界まで痛めつけることで、自分のプライドをかろうじて保っていた。

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ブルマは、べジータの重力室でのトレーニングの様子を、モニター越しに見ることが日課となっていた。
特に最近のべジータは、自分の命をなんとも思っていないような無茶苦茶なトレーニングをしているようで、
ブルマは目を離すことができなかった。

ある日べジータの眼に、異様ともいえる光を宿していることに、ブルマは気づいた。
地球での戦いや、ナメック星での戦いを断片的に見ていたブルマだったが、
その頃のべジータは、戦うことを楽しんでいるような余裕があったような気がする。
だが、このモニターに映るべジータの眼は・・・

敵に追い詰められ、牙をむいて唸る獣の眼だ・・・
(危険だわ)
ブルマの直感が赤信号を灯した。

その時、

耳をつんざくような爆発音とともに、ブルマのいるモニター室が衝撃に襲われ、床に亀裂が走った。
(な、なに?!)

先ほどまでべジータを映し出していたモニターからは、耳障りなノイズだけが聞こえる。
(重力室が爆発したんだわ!!!)
ブルマは急いでべジータがいる重力室へ向かった。
(べジータは大丈夫かしら!きっと大丈夫よね、あいつサイヤ人だもん)

ブルマは呆然とした。

今まで重力室が存在していた場所は瓦礫の山となり、天井の一部が吹っ飛ばされ、そこからは青空がのぞいている。
「な、なにこれ・・・」
ブルマはすぐさまべジータの姿を探した。
が、すぐに見つかった。 それも最悪と思われる状態で。

重なった瓦礫の下からおびただしい量の真っ赤な血が、じわじわと瓦礫を伝い床にたまっている。
その血の主は・・・まさしくべジータだった。
ブルマは頭の中が真っ白になり、その場に立ち尽くした。

「う・・・」
べジータの呻き声にブルマは、はっと我に返り、無我夢中でべジータを瓦礫の下から引っ張り出した。
「べジータ、返事をしてべジータ!!」
べジータの意識は既になくなっていた。

とにかく、べジータを病院へ運ばなくてはいけない。
しかし、べジータの体からは生暖かい血がドクドクとあふれ、下手に動かすことは躊躇われた。
ブルマは自分の上着を脱ぎべジータの傷口に押しつけたが、
みるみるうちに上着は赤く染まりブルマの白い手をも濡らした。
(どうしよう、今日に限って父さんがいないのに!!!)
ブルマは思いつく限りの方法を考えてみた。
救急車など呼んでいる時間はないだろう。
それに地球人用の医療施設で、どれだけのことができるのか判らなかった。
ブルマは硬く眼を閉じた。
(そうだ、仙豆!)
孫悟空なら、この状態を察知して瞬間移動で来てくれるかもしれない。
ブルマは孫悟空の名前を呼んだ。
べジータの気が消えかかっていることを、きっと孫悟空は感じているはずだ。
(お願い、孫くん!助けに来てよ!!!)ブルマは祈った。

しかし、孫悟空が来るような気配はない。
だが、ぐずぐずとしている時間はない。
こうしている間にもべジータは確実に死に向かっているかもしれないのだ。
サイヤ人は馬鹿みたいに強いだけで、決して不死身ではない。
地球人と同じように血を流し、同じように怪我もする。
ブルマは覚悟を決めたようにゴクリと唾を飲み込むと、血まみれになって倒れているべジータの腕を自分の首にかけて担ぎ上げようとした。
しかし、いくら小柄だとはいえ体中が筋肉でできているべジータを、ブルマのような非力な女の力で持ち上げることはできなかった。
(べジータが死んじゃう!)
「孫くん、助けてよーー!!!!」
ブルマは叫んだ。

「悪りぃブルマ、待たせたな」
目の前に現れた孫悟空を見ると、ブルマは泣き出しそうになった。
「そうよ、遅いじゃないの!」
「オラ、カリン様の所へ行って仙豆をもらってこようとしたんだ」
「ホント!?それじゃ早くべジータに!!」
「それが・・・今は一粒もできてねぇらしくて・・・。
ブルマ!べジータを病院に運ぶ。オラが治療していた病院でいいのか?」
「そんな・・・」
「早くしねぇとべジータ死んじまうぞ!」
「わかったわ、ウチの第二研究室へ運んでちょうだい!
まだ試作だけどメディカルマシーンを作ったのよ!」
「わかった」
孫悟空はべジータとブルマをつかむと、研究室へ瞬間移動をした。

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ブルマは一人、メディカルマシーンの前に突っ立っていた。
あれから孫悟空に手伝ってもらい、べジータをマシーンの中に入れ、しばらく一緒にべジータの様子を見ていたが、後は大丈夫だからと孫悟空を家に帰した。

実のところ、全く大丈夫ではなかった。
メディカルマシーンの試運転もろくにしていない状態で、瀕死のべジータを入れてだろうか。
病院へ連れて行けば良かったとも思ったが、あの状態では、どちらにしても助からなかったかもしれない。

(大丈夫、あたしは天才だわ。自分の腕を信じなさい)
ブルマは何度も自分に言い聞かせていた。

それにしても、べジータの脳波をキャッチするはずの診断機に全く反応がこない。
(故障?それともべジータは死んじゃったのかしら?このマシーンは失敗だったの?)
ブルマは強い不安に襲われた。




メディカルマシーンの青白い光と、液体が循環するコポコポという音だけが、不気味に研究室に響く。
あれから、既に6時間が経過していた。
メディカルマシーンの設定では、6時間で初期再生が終わらければならない。
しかしべジータには、なんの変化も見られなかった。


目は硬く閉じられ、無表情のままで、実験室の標本のようにぐったりと液体の中に沈んでいるままだった。

(あたしはべジータを助けることが出来なかった)

ブルマは研究室の冷たい床に、崩れるように両膝をついた。

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