雨と夢のあとに 2

雨は次第に土砂降りになってきたようだった。
ブルマのいる地下シェルターからは雨の音が聞こえないが、出入り口に設置してある小型カメラには激しく降る雨が映し出されていた。
「すごい雨・・・べジータ・・・」
ブルマは少しでも早くべジータの姿を確認できるように、目をこらしてモニターを見入っていた。
べジータはまだ戻らない・・・・。 ブルマは不安に掻き立てられ、いてもたってもいられなくなった。
(行こう、べジータを探しに・・・)
ブルマは小さなカプセルに入った、最後のジェットフライヤーを取り出した。
その時・・・
「何処へ行く、こんな雨の中」
ブルマが待ち望んでいた男の声がした。
「べジータぁ!!」 ブルマはべジータに勢いよく抱きついた。
「良かった!!イヤな予感がしてたのよ!あたしってヘンに勘が鋭いからべジータがもう帰ってこないんじゃないかと・・・思って・・・」
最後の言葉は涙に混じって声にならなかった。べジータもブルマの肩をぐっと抱きしめた。
「べジータの体ってあったかい・・・」
「べジータが死んじゃったら・・・どうしようかと思っちゃったわよ・・・」
「・・・そうか」

ブルマはある違和感を覚えた。
いつものように「オレは死なん」という強い言葉が返ってくると思っていたのに・・・。
その言葉に、ブルマはいつも安心していた。べジータが死ぬわけはないと思える瞬間だったから。
しかし今、ここに立って自分を抱きしめるべジータには、生きているものが持つ、体中から発せられるオーラの強さが感じられない。
体温もあるし触れることもできるが、今にも透き通ってしまうような脆さがある。
(べジータ、まさか)
ブルマはもう一度べジータの顔に視線を戻した。べジータのキリッとした太い眉が、眉間に切なそうに寄せられたのをブルマは見逃さなかった。
「ブルマ、オレは」
「そうそう、べジータ!お腹すいたでしょ!!昨日はたくさん食料を手に入れたから、お腹いっぱい食べられるわよ!」
ブルマはべジータの体から離れ、明るすぎる声でべジータに笑いかけた。
「メシはいらん」
「なにも食べてないのに?へんなべジータ。それじゃあさ、あたしを食べる?」
ブルマはいつものように軽い冗談を言い、再びべジータの胸に腕を回した。
「ブルマ」
べジータはいつにもなく真剣な視線を、まっすぐにブルマにぶつけた。
その視線の強さに、ブルマは思わず目を逸らした。その目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、ブルマはこらえるように宙を睨んだ。
「べジータ、今は・・・何も言わないで」
ブルマの蒼い瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

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悟飯はよろよろと、西の都へ向かっていた。
あの後、幸か不幸か、人造人間達は自分に興味を失ったように飛んでいってしまった。
悟飯はしばらく雨に打たれ瓦礫の下に倒れていたが、コンクリートの固まりをどかしゆっくりと立ち上がると、よろよろと歩きだした。
しかし体中の骨は折れ、歩く度に鋭い痛みを感じ、肋骨は肺に突き刺さったままで呼吸すら苦しかった。
しかし、悟飯は西の都を目指して歩き続けた。
「ち、きしょう・・・。ブルマさんになんて言えばいいんだ」
悟飯は、べジータの壮絶な最後をブルマに伝えることを考えると、自分の怪我以上に苦しくなった。
(すみません、ブルマさん。ボクはべジータさんを見殺しにしてしまったんです)
悟飯は自分を責めた。
(ボクがお父さんみたいに強ければ、べジータさんは死ななくてすんだのに!)
悟飯は黒い雨に打たれるのもかまわず、空を仰いだ。

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「話を聞け、ブルマ」
「・・・」
「オレはここでの生活で、地球人の心を少しずつ理解していった、お前やカカロットのおかげでな」
「・・・」
「理解すると共に、オレの心がだんだんと穏やかになっていくのがわかったんだ。そんな自分を認めたくはなかったがな。だからオレは今までのように行動してきた」
「・・・知ってるわ」
「ブルマ、オレは感謝している。このオレを・・・戦いがすべてだったこのオレを受け止めてくれたお前にな」
「何よ、後悔してるとでも言うわけ?」
「サイヤ人は戦闘民族だ、戦わなければ生きている意味がない、死んでいるのと同じことだ。オレは誰よりも強くなることを願い生きてきた。後悔などするわけがないだろう」
「ブルマ、オレはお前に伝えにきた」
べジータはブルマの両肩をぐっとつかんだ。
「オレは満足している。だから、オレが死んだとしても・・・泣くな」
べジータの決定的な言葉に、ブルマの双眸からは、関を切ったように大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
「あ、あんたがあたしを残して死んじゃったっとしても・・・誰が泣いてやるもんですか」
ブルマは大きな瞳を見開いてべジータを睨んだ、つもりだったがいつの間にか視界にいるべジータがにじんできた。 ブルマは自分でも泣いていることに気づかないほど動揺していたが、べジータはやさしくブルマを包みこんだ。 今までにないほど、やさしく。
「プレゼントをしてやる、ブルマ」
べジータは不意にブルマを抱き抱えると、地下シェルターから地上へと続く階段を上り始めた。
外は黒い雨が滝のように降っていたが、べジータの周りには金のオーラがまとわりつき、冷たい雨を弾いているようだった。
以前、C.Cの中庭があったその場所にブルマをそっと下ろすと、べジータはブルマに口付けをした。
ブルマは静かに目を閉じて、べジータの暖かな唇の感触だけを感じていたが、いつのまにか雨の音も聞こえなくなり、2人の時間が止まったかのように思えた。
(べジータ、ずっとこのままでいたい)
永遠のように思えた時間を振り切るように、べジータがブルマの唇からそっと離れると、次第に雨音がブルマの耳に戻ってきた。
「オレは幸せという意味を知った」
べジータの強い光を持った漆黒の瞳には、ブルマの蒼い瞳が映りこんでいる。
「確かに地獄のような世界だったかもしれないが、オレは・・・幸せだった」
「べジータ・・・」
「いいか、ブルマ、オレのことは忘れろ。過去にとらわれるな」
べジータはふっと目を細めた。
「べジータ、嫌よ!あたしはそんなに強い人間じゃないの!あんたがいない世界でどうやって生きればいいのよ!!」
ブルマは、今にも消えてしまいそうなべジータを、必死にこの世界につなぎとめるように叫んだ。
べジータは困惑したような表情を浮かべた。 こんな表情をするべジータは初めてだった。
「トランクスは強い戦士になる。・・・オレのガキだからな」
「トランクスを強い戦士に育てるために、生きろ、ブルマ」
べジータはそう言うと、もう一度ブルマに抱きしめ、長い、長いキスをした。

-オレは幸せだった、ブルマ-

そして金の光がはじけるように、べジータは消えた。

いつのまにか雨はやみ、ひとり残されたブルマはふと空を見上げた。
「空が・・・青空が、見える」 ブルマはつぶやいた。
まだ平和だったころに、当たり前のように広がっていた、穏やかな青い空。
いつもべジータが着ていた戦闘服の色のようだとブルマは思った。
「素敵なプレゼントだわ、べジータ」 ブルマは少し笑い、少し泣いた。

C.Cを目指して歩いていた悟飯も異変に気づいていた。
「青空が・・・何年ぶりだろう」
いつのまにか、空の色は灰色だと思い込んでいた。
その空を一人見つめる人影を見つけた。
「ブルマさん!」 悟飯は叫んだ。
ブルマは我に返ったように悟飯を振り返った。
「悟飯くん」
「ブルマさん、すいません。べジータさんは・・・」
「悟飯くん」
ブルマは悟飯の言葉をさえぎるように言った。
「あいつったらさぁ、最後まであたしのこと「愛してる」って言わなかったのよ。ホントにもう・・・べジータらしいわ」
「ブルマさん?」
「ねぇ、悟飯くん。トランクスを鍛えてやって。誰よりも強い戦士になるように・・・悟飯くんが鍛えてやって」
「え?」 悟飯は唐突なブルマの言葉に驚きを隠せなかった。
「あたしも戦うわ。またこの青空を見られるように戦うから。べジータと約束したの。べジータがいなくなってもちゃんと生きるって・・・」
悟飯はブルマの顔を見つめた。
まっすぐに未来を見つめる強い意志が、ブルマからあふれているようだと思った。
「たのんだわよ、悟飯くん!」

ブルマはにっこりと微笑んだ。





あとがき
もう少しひっぱってラブラブな感じにしたかったのですが、これでおしまいです。
どうやらべジータはクールな方が、動かしやすいみたいで・・・ 未来編はいいですねー。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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